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第26回国際アマチュア・ペア碁選手権大会

大会観戦レポート

 世界中の囲碁ファンが集う、囲碁界きっての華やかな祭典――
 第26回国際アマチュア・ペア碁選手権大会が、12月5日、6日に、東京・飯田橋のホテルメトロポリタンエドモンドで行われました。

 大会初日。会場は、対局前から賑わいました。再会を喜ぶ声、記念写真を撮り合う光景……もちろん緊張気味に席につく選手たちもいましたが、対戦相手のペアに話しかけられるとたちまち笑顔に。選手の皆さんが、この日を楽しみにしていた様子が手にとるようにわかりました。

 開会式では、滝裕子 日本ペア碁協会常務理事があいさつに立ちました。
「皆さん、ようこそおいでくださいました。再びお目にかかれた喜びは、今日はひとしおです。昨年、25周年記念として催しました特別記念イベントは皆さまに喜んでいただきました。今年は、1回目のような初々しい気持ちで迎えています。さらに、50年、60年と世界中の方から愛され続けるように、努力を重ねてまいります。ペア碁を応援してくださるPGPPの皆様にもお礼申しあげます。
 世界は今、争いが絶えませんが、ペア碁を通じ、こうしてそれぞれを尊重しながら集えることを、自信を持って喜んでおります。ペア碁の精神は、世界に必要な心だと思っております。どうぞ、この2日間、パートナーを思いやり、相手を尊重するペア碁の醍醐味を味わい、お国や地元に持ち帰って、伝えていただけますように」

 続いて、審判のマイケル・レドモンド九段より、日本語と英語で競技説明。
 互先でコミは6目半。持ち時間は45分で、時間切れは負け。相談は厳禁。打つ順番の確認と投了をしてもよいかの確認だけは、パートナーとの会話が許されること。誤順は3目のペナルティ。
ルールを確認し、いよいよ開始コールです。

 今年の本戦は、海外から20組、国内から12組のペアが予選を勝ち上がって出場。1回戦の組み合わせは、抽選で決められました。何も配慮していないにもかかわらず、日本ペア同士の対戦は1局だけ。日本対海外のカードが10局も組まれました。

 1回戦から強敵、中国ペアと対戦したのは小田彩子・永代和盛ペア。日本ペアの形勢がよくなり、相手が勝負手を放って難しい戦いに突入しました。「きわどかったです」と永代さん。でも最後は相手の石を仕留めて中押し勝ちをおさめました。敗れた中国の黄暁迪、張栄正ペアは「お互いのレベルが近くて強いので弱点を探すのが難しかった」と脱帽。碁盤を離れ、「なかなか負けないか、とは思ったけど」と言う永代さんに、彩子さんは「まあまあ、自信ばっかりあってね」。夫婦の息はピッタリ合っている様子でした。

 今年から加わった「パンダネットペア碁チャンピオン」の枠で出場したのは、森菜都未・伊瀬英介ペア。このペアも、持ち前の力強さを発揮して、フランスのドミニク・コルニュジョル、デニス・カラダバンペアを退けました。とはいえ、フランスペアは、一瞬勝てそうなシーンもあり、大健闘。デニスさんは「相手が強かった。その割にはうまく打てたし、二人で流れをつくれました」、ドミニクさんも「挑戦者の気持ちで打てたのがよかったわ。気持ちよく打てたし、楽しかった」と大満足の笑顔でした。

 日本同士の対戦は、大熱戦の末、堀江邦子・仲秀行ペアが伊藤正子・高薄和哉ペアに1目半勝ち。「私が最後にポカを打ちました」と伊藤さんが無念そうに振り返っていました。
 ちなみに、伊藤さんは、昨年まではずっと和哉さんのお父様とペアを組んでいらしたそうです。「親父が少し疲れてきましたので、代わりに私が」と和哉さん。ペア碁の歴史を感じさせるお話でした。

 笹子理紗・江村棋弘ペアは、ニュージーランドのエマ・レイノルズ、エドウィン・フィーズペアと対戦。「高校生のエマさんが、可愛くて可愛くて」、「応援にきていた彼女のお父さんも、4名全員お水を運んでくださったり。とっても優しくて親切なんです」。笹子さんも江村さんも、盤上を離れて感動されていたようです。

 どのテーブルでも、対局後には熱心な検討が始まりました。ロシアペアが「こう打っていたら?」と碁石を並べ直し、出来上がった図を、敗れたブルネイペアが写真におさめるシーン、韓国ペアが並べ直す一手一手にタイペアがいちいちうなずくシーン……その後も、オランダ選手が木靴のホルダーを差し出すなど、小物のプレゼント交換をしたり、4人そろって写真を撮ったり、暖かい交流の時間が流れました。
 海外ペアと対戦した日本ペアは皆、白星スタート。幸先のよい立ち上がりでした。

 16時からは、恒例の民族衣装をまとっての親善対局です。本戦出場選手に、学生ペア碁選手権に出場する選手たち、大会関係者、そして日本と韓国のプロ棋士も加わって、今年も圧巻の光景となりました。

 ここで、大会の「ベストドレッサー賞」の審査委員長として迎えられたデザイナー、コシノジュンコ氏の講評を一部ご紹介しましょう。

クロアチア代表
ミルタ・メダック/ダミール・メダック 親子ペア
【講評】親子で一緒に囲碁をやれる親子の絆がチャーミングでした。細かい完璧な民族衣装で本当にお二人合わせて上品でよく似合っていました。このペアの衣装を見るとクロアチアという国自体の楽しそうな雰囲気を感じ取れました。

ベラルーシ代表 ヴァレンティナ・シュクガル/アレキサンドラ・スポニャフペア
【講評】作り出す雰囲気がとても良いのびのびとしたペアでした。男性の帽子が特に似合っていて、二人ともとてもおしゃれでした。

世界学生ペア碁選手権
中華台北代表 胡釋云/蔡棠聿ペア
【講評】ヘアースタイルからこだわっており、大変上手に衣装を着こなせているところが良かったです。少数民族「アーメイ族」の衣装が本当にかわいかったです。

 親善対局前、ボランティアで参加してくださった日本プロ棋士一人一人が壇上で紹介されました。それぞれ「ペア碁で勝つ秘訣」を問われて……。

大会審判長/小川誠子六段
「素晴らしい民族衣装を見渡していると、囲碁を通して世界は一つだなあと幸せな気持ちで一杯です。ペア碁で勝つ秘訣は、こちらにいらっしゃる棋士の皆さんにお任せします」

大会審判/マイケル・レドモンド九段
「この手はいい手だ、と思った手を打ってください。プロとペアになった方は、『プロ』を気にせず、緊張しないで伸び伸び打ってください。プロはそれが嬉しいのですから」

羽根直樹九段
「伸び伸び打てれば一番です。パートナーがどんな手を打ってもほめる気持ちが大切。もちろん、私も怒りません」

今村俊也九段
「プロになって35年、1500局以上対局しましたが、思いどおりに打てた碁は一局もありません。ペア碁ならなおさらでしょう。思いどおりになると思わず、無限の変化を楽しみましょう」

山田規三生九段
「秘訣かどうかわからないのですが…パートナーを信頼して、無責任に打つこと。僕はそうしていて、うまくいっています」

吉田美香八段
「パートナーがどんな手を打っても微笑んでいることです。寄り添うことで、パートナーの考えが伝わってきますから。伝わってこないときは、伝わるまで待つか、伝わる相手を待つことです」

林漢傑七段
「最近夫婦杯の決勝戦で、私が足を引っ張って負けてしまい、秘訣を教えてほしいぐらいなのですが……気をつけていたのは、うなずくことです。パートナーがいい手を打ってもうなずく、悪い手を打ってもうなずく、意味がわからなくてもうなずく。そして、お互いにいいところをほめ合うことです。今日も明日も、皆さん、いっぱいうなずいてください」

謝依昊女流三冠
「私も、秘訣を知りたいのですが……困った局面でも、自分の一番いい手を打つこと、を心がけています。女性の場合は特に、思いきって打つこと。なぜかと言いますと、囲碁を打つ男性は皆やさしいので、きっとフォローしてくれるからです。やさしさを信じて打って何回か優勝できましたので、これが秘訣かもしれません。この話を聞いた男性は、きっと、もっとやさしくなってくれると思います」

原幸子四段
「ペア碁の秘訣など、とても私から申しあげることはありません。ただ、思い出すことがあります。昨年の親善対局で、一人が打った一手に、4人が同時にクスッと笑ったことがありました。それが楽しくて嬉しくて。言葉も国も違うのに同じ気持ちになれる。ペア碁のよいところだと思います。今日も、共通語である「囲碁」で楽しみたいです」

青葉かおり四段
「これから、心が通じ合うステキな瞬間があると思います。一つ注意事項が……恋に落ちないように気をつけてください」

 それぞれのコメントが通訳されるたびに、会場は笑いに包まれ、和やかな雰囲気が増していきました。
 対局が始まると、和やかな中にも引き締まった空気が張り詰めました。それでも、開始早々、吉田美香八段が「親善対局なので、優しく打ってくれませんか!」と悲鳴をあげると、周囲の日本選手は笑い出し、通訳されて、お相手の男性の崔仁焃さん(韓国)も思わず笑顔になっていました。
 フィンランドの女性マイジュ・カハラさんと組んだ林漢傑七段は「きれいな人でドキドキしてしまいました」。対局よりパートナーが気になるといえば、アメリカ囲碁協会会長のアンディ・オークンさんは、盤上より横を見ている時間が多く(?)、何枚も写真を撮られるので、パートナーの小田彩子さんが吹き出すほどでした。
 マイケル・レドモンド九段は、日本語と英語を織り交ぜながら局後の検討。ここぞとばかり、質問攻めに合っていました。韓国語、中国語、英語の通訳スタッフ陣もあちらこちらから声をかけられて、会場を走り回る忙しさでした。
 シャッター音と笑顔と握手と……幸せな時間は、瞬く間に過ぎていきました。

 18時からの前夜祭は、ペア碁のオリジナルソング『Pair Go,My Dream』(作詞:小山薫堂,作曲:平田輝)で開幕。ケイティ・ケイコさんと作曲された平田輝さんの歌声が一気に会場を熱くしました。
 滝裕子 日本ペア碁協会常務理事の「25年の歩みの中で、ペア碁は、ブリッジ、チェスと共に、マインドスポーツとして認知されました。こちらにお集まりの皆さま、ペア碁ファンの皆さまのおかけです」というあいさつに続き、松田昌士をはじめとする、大会顧問の役員、海外から来日された招待役員の方々の紹介がありました。  

 続いて、松浦晃一郎 世界ペア碁協会会長があいさつに立ちました。
 「このように盛大にペア碁の国際大会が開催され、26回も続いてきたことを嬉しく思います。30回大会も目の前に見えてきました。現在、ペア碁は国内のみならず世界各国に広がっており、『世界ペア碁協会』のメンバーは73カ国・地域に増えています。今後はアフリカにも広げていきたいと願っています」。
 今日も皆さんに民族衣装でご参加いただき、賑やかでとても嬉しく思います。国際アマチュア・ペア碁選手権と共に、昨年から始まった世界学生ペア碁選手権も、参加国が増えてきて嬉しく思います。今後も、この大会が世界の交流の場となりますように願っています」

 海外の役員の皆さまに、滝理事より記念品が贈られた後、乾杯のご発声は、韓国棋院事務総長でもある招待役員の梁宰豪さんがとられました。
 「26回の開催おめでとうございます。とても嬉しく思います。韓国でも、ペア碁は囲碁普及のためにとても大事だと認識され、世界大会も開催するようになりました。ペア碁が世界に広まるために、韓国棋院はこれからもベストを尽くしたいと思っています。ここまでペア碁を発展させてくださった松田理事長、松浦会長、そして滝理事に多大な感謝を述べたいです。
ペア碁のために、乾杯!」
 会場中の囲碁ファン、ペア碁ファンが杯をかかげ、拍手が沸き起こりました。
 ペア碁のオリジナルソングの英語版も、ケイ・グラントさんとJAMOSAさんによって披露され、会場に集まった24カ国・地域の人々の交流がますます深まる中、本戦と学生ペア碁の選手の皆さん全員による豪華な記念写真の撮影。明日の熱い戦いを期して、散会となりました。