第29回国際アマチュア・ペア碁選手権大会

第29回国際アマチュア・ペア碁選手権大会

大会アルバム・観戦レポート

 世界一華やかな囲碁の祭典――「第29回国際アマチュア・ペア碁選手権大会」が、12月1日、2日の両日、東京・飯田橋のホテルメトロポリタンエドモンドで開催されました。世界20か国・地域の代表選手たちの熱戦と交流、そして、同時開催された「第5回世界学生ペア碁選手権」と「荒木杯ハンデ戦」の模様をお伝えします。

 大会初日、本戦出場の海外ペア20組、国内ペア12組(1組はパンダネットペア碁チャンピオン)が集まると、会場は花が咲いたように賑やかに。一回戦の組み合わせは抽選によって決まっていきました。指定の席に緊張した面持ちで座っていても、対戦相手のペアが笑顔を向けると、たちまち顔がほころんで、皆さん、それぞれに対局を楽しみにしている様子でした。

 いよいよ本戦の開会式です。日本ペア碁協会筆頭副理事長の滝裕子が「東京にようこそいらっしゃいました。選手の皆さん、役員の皆さん、本当にありがとうございます。今年も32組64人の選手の方が本戦に参加されます。1990年の第1回大会でご招待したのは、日本、韓国、中国、中華台北の4か国・地域のペアでした。この大会も29回目となり、現在は、世界75か国・地域でペア碁が楽しまれるようになっています。あちこち回って普及してまいりました。日本、世界を回り、対局中のペアの真剣な表情と、そして対局後の楽しそうな様子を見て、いつも感激いたしております。今日は親善対局や前夜祭も企画しております。皆さんの民族衣裳も楽しみにしております。二日間、楽しく、真剣に対局していただき、新しいペア碁の友を大勢作ってお帰りいただけますように」とあいさつ。選手の皆さんの真剣な空気がじわじわと会場に充満してきました。
 審判のマイケル・レドモンド九段が日本語と英語で競技規定の説明とアドバイスを一言。「楽しむ気持ちを忘れずに。45分の持ち時間で秒読みはありませんので、時間切れにならないように、気をつけてください」。そして、「それでは一回戦をはじめてください」と開始コールが響きました。

 昨年は、宇根川万里江・瀧澤雄太ペアが、日本勢として18年ぶりに本戦優勝を飾り、大会が大いに盛り上がりました。連覇を期して、今年も激戦区の「関東・甲信越」からの出場を決めています。その「18年前」に優勝したのが、「近畿」代表の新井菜穂子・多賀文吾ペア。多賀さんは「東京にしばらく出張していた」そうで、今年久々にペアを復活させての出場となりました。さすがは優勝経験のある2組のペアは、1回戦を危なげなく白星で飾りました。

 中国の陳蔓淇・汪文淇ペアは、女性の陳さんが12歳で今年の最年少選手でした。昨年も中国の11歳の呉依銘さんが話題を集めました。中国棋院の囲棋部部長の王誼さんによると「なれるかどうかは、まだわからないけれど、プロを目指しています」とのこと。陳さんに「ペアの汪さんは頼りになりますか?」と尋ねると、小さな声で「はい」と答えて影に隠れてしまいました。シャイなのですが碁盤に向かえば凛々しい表情で、一回戦は「中国ブロック」代表の竹野麻菜美・小野慎吾ペアに勝利。汪さんは「陳さんとのペアが決まってから中国でたくさん練習してきましたが、今の相手も強かったです」とホッとした表情でした。

 優勝候補の韓国ペアと1回戦で対戦したのは、カナダのリディア ギャラント・レミ コンパーニュペア。対局を終え、ギャラントさんは「パートナーがしたいことはわかったので、いいペアになれると思います」と手応えを感じた様子。コンパーニュさんは「我々もかなり強いのですが(笑)、今の相手は我々には強すぎました」と脱帽していました。

 日本ペア同士の対戦も2局ありました。「九州・沖縄」の関本実穂子・内田直也ペアは、「東北」の木内淳子・高橋新一郎ペアに勝利。関本さんは「ちょっと優勢かなぁと思ったとたんに見損じをして」。木内さんは「攻め合い勝ちを読み切れなくて」。この局後のコメントからも波乱に満ちた一局だったことが伺われました。
 もう1局は、「近畿」の小松有希・小松達弘ペアが「パンダネットペア碁チャンピオン」の濱崎明日佳・石田太郎ペアを接戦の末に降し、有希さんは「めっちゃよく打てたよね、私」とご主人に自慢気な様子でした。

 他の日本ペアは順調な滑り出し。でも、インドネシアペアと対戦した「東海・北陸」の岡田健斗さんは「思ったより苦戦しました」とのこと。ウクライナペアと対戦した「関東・甲信越」の辻萌夏さんは「お相手のペアが民族衣裳だったので、『ヤッター!楽しい!』って思いました」と余裕のコメントでした。「関東・甲信越」の小田彩子・永代和盛ペアと対戦したトルコペアの男性、アルタン クンテイさんは考古学者。碁は友達に習い、ときどき集まって対局しながら強くなったそうです。「日本のペアは強すぎます!」と笑いながら「お手上げ」のポーズをとっていました。

 一回戦の後は、それぞれ民族衣裳に着替えて再び集合。会場は一気に華やかな色彩に包まれました。
 トルコ代表のセルダ カルン・アルタン クンテイペアの衣裳は……
 クンテイさんによれば「私は、日本のサムライのようでしょう? 軍隊のもの。戦う人が着る衣裳です」とのこと。カルンさんの衣裳は、「結婚式の前夜祭で着る服」だそうです。
 ロシア代表のギュゼル スルマ・イゴール ティコペア(写真一番左のペア)の衣裳は……
 どちらも民族衣裳ですが、男性は中央部、女性はカザフスタン寄りの地域で着られるそうで、スルマさんは「靴が自慢。よく見て欲しい」とのことでした。
 ロシアペアは、一回戦はアメリカペアに敗れてしまいましたが、「私たちもがんばって、楽しかったです。私たちは5年間ペアを組んでおり、これからも一緒に活躍したい」と笑顔。 スルマさんは「明日は、まず、勝ちたくて、それから友だちをつくりたいです。ペア碁で一番楽しいのは、息を合わせるところ。二人の気持ちが一つになると、よいストーリーを描けます」。ティコさんは「今回はもう優勝は望めませんが、もっと勉強して、これからもペア碁の深さを感じていきたい」とそれぞれ話してくださいました。

 親善対局に参加したのは、本戦出場の選手の皆さん、「世界学生ペア碁選手権大会」の選手の皆さん、関係者の方々。そして、審判長の小川誠子六段らプロ棋士も加わり、毎年恒例ながら、圧巻の光景でした。
 対局に先立ち、棋士の皆さんから「ペア碁に勝つ秘訣」と共に、エールが贈られました。
 マイケル レドモンド九段「私自身は、ペア碁は毎年負けているので、『秘訣』は当てになりません。親善対局は勝ち負けは関係ありませんので、皆さん楽しんで、よい時間を!」
 羽根直樹九段「やはり、どんな対局も自分の力を出しきっていただければいいかなと思います。そのためにもリラックスして、気持ちを落ち着かせて、素敵な時間にしていただければと思います」
 今村俊也九段「最近はAIが強くなりましたが、私は個性も大事にしていきたいと思っています。ペア碁では、お互いの個性を理解し合いながら戦ってください」
 山田規三生九段「ここに来る前に、小学校で、子供たちと明日の(荒木ハンデ戦の)練習をしてきました。彼らは『ベストドレッサー賞』に気合いを入れているようでした。いろいろな楽しみ方があるのですね。皆さんも楽しんでください」
 林漢傑八段は、まず日本語、英語、中国語、韓国語で「こんにちは」とあいさつ。「プロのペア碁の大会もありますが、こんなにカラフルではなく、殺伐としています。私の妻もプロですが(鈴木歩七段)、ペア碁が得意でプロ棋士ペア碁選手権で優勝1回、準優勝を5回もしています。そこで『秘訣』を妻に聞いてきました。『パートナーが頼れる人で、忍耐強く放牧させてくれる人』だと打ちやすいとのことでした。皆さん、今日は羊飼いの気分になって、あとは自分がなんとかするぞという思いで打たれると、よい結果になると思います」。そして日本語、英語、中国語、韓国語で「ありがとう」。会場を終始沸かせていました。
 青葉かおり五段「私が今日ペアを組ませていただく岩﨑和人さんは大局観を持っていらっしゃるので、そこはお任せし、私は読みを担当し、普段よりレベルの高い碁を打てるのではないかと思っています。皆さんも、二人のよいところを生かし、苦手なところを助け合い、より深く楽しく打ってください。心に残る大会になることを祈っております」
 原幸子四段「私はペア碁を打つのも大好きですし、教えている教室で子供たちにもすすめています。理由は、どんな棋力の人も、バランスをとって対局できるからです。最近、子供たちがペア碁を打つととても強い、ということに気がつき、その理由にも気がつきました。子供たちは、普段一人で打っているときは、思い込みや勝手読みが多いのですが、ペア碁は自分の打つ番が回ってくるまでに、思いもよらない局面になっているので、その都度、考えるからではないでしょうか。一手一手新鮮に考え、最善を尽くすからではないかと思います。私もペア碁を打ちながら強くなりたいと思っております」

 そして、いよいよ親善対局がスタートしました。まず、それぞれ自己紹介。その後は、持ち時間はなく、時間の許す限り親善を深めることとなりました。
 オランダ代表のイボンヌ ルロッフさんの陽気な笑い声が止まらなくなるヒトコマもありました。聞けば「パートナーの打つ手が難しすぎて、全然わからない!」とのこと。つられて、4人で笑い合っていました。
 林漢傑八段は、早い終局となり「覚えておくと2級強くなる」講義が始まって三人が身を乗り出していました。その後はペアをチェンジして2局目に突入。最初に林八段とペアを組んだ、ニュージーランドの学生代表、エマ レイノルズさんは「林先生のおかげでいい戦いの碁を打てたし、どうすれば強くなるのかも教えてもらえたし、全てが素晴らしかった!」と大興奮でした。
 羽根直樹九段も、局後に、三人にそれぞれアドバイス。羽根九段とペアを組んだタイの学生代表、ロムチャリー チュートラクールさんは、終始緊張した面持ちでしたが、半目勝ちの結果に思わずにっこり。「楽しかったし、半目勝ちだったのでビックリしました」と恥ずかしそうに、でも可愛らしい笑顔で話してくれました。
棋士たちも楽しく過ごしたようで、青葉五段は「経験したことがないほど、完璧にいい碁が打てました」。レドモンド九段は「打つ前に棋力を確認してなかったんだけど、3人ともめちゃめちゃ強かった」。山田九段も「女性が8級同士で、すごくいい勝負。二転三転して作り碁になって」と、それぞれ興奮さめやらぬ様子でした。

 前夜祭も盛大に行われました。まず、「スペシャルステージ」で幕開け。東京藝術大学大学院音楽学部の皆さんによる弦楽四重奏でモーツァルトの「ディヴェルティメントヘ長調 作品番号138」第1楽章、第3楽章が演奏され、大きな拍手に包まれました。

 続いて、松浦晃一郎世界ペア碁協会会長の、英語と日本語によるあいさつがありました。
松浦「1990年にスタートしたペア碁を草案したのは滝久雄さん、これを日本中に、そして世界に広める中心的役割を果たしてきたのは奥様の滝裕子さんです。ますます世界に広め、オリンピック・パラリンピックが開催される2020年には「ペア碁ワールドカップ2020」も開催し、アマチュア選手も招待して、オリンピックイヤーにふさわしい、大きく華やかなペア碁の祭典にしたいと考えております。今年も世界的なデザイナーのコシノジュンコさんが審査委員長をしてくださるベストドレッサー賞もあり、今日も皆さんの民族衣裳はとてもきれいです。対局もどうぞがんばってください」

 海外役員と、松浦会長のお話にのぼったコシノジュンコ氏をはじめとする国内の来賓、ならびに主催者が紹介され、代表して、中国棋院院長の朱国平さんの乾杯のご発声がありました。
朱「第29回国際アマチュア・ペア碁選手権大会の開幕に心からの祝福と敬意を表します。また、前夜祭も大盛況で、心よりお祝い申し上げます。ペア碁の誕生によって、絶妙な競技性と娯楽性が実現し、囲碁がもつ深い文化が示され、囲碁がもつ知恵と戦略性に満ちた芸術的な協議であることを多くの人々に知ってもらうことができています。ペア碁は、勝つことが目的ですが、負けても楽しい。選手の皆さん、健康で楽しく打ってください。日本を祝い、世界を祝い、29回大会を祝いましょう。乾杯!」

 会場の一堂は杯を合わせ、旧交を温めたり、新しい友と和やかに歓談する時間が流れました。来賓の方々も次々とご登壇されて、お祝いのごあいさつがありました。中でも興味深かったのは、元オリンピック選手、現在は参議院議員、公益財団法人日本オリンピック委員会副会長でもある橋本聖子さんのスピーチです。
橋本「本日はご盛会を心よりお喜び申しあげます。年齢をお伝えしてよいか、少しためらわれるのですが、今回、ペアで160歳―女性が78歳、男性が82歳―がいらっしゃると伺い、素晴らしいなと思いました。健康寿命を延伸させるのが日本の政策でもありますが、ペア碁はそういったことも兼ね備えていて素晴らしいと思います。日本ペア碁協会には『ペア碁をオリンピックの正式競技にする会』がありましてご尽力されているわけですが、私も日本オリンピック委員会副会長という立場で、なんとかペア碁を2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けた活動の中で、プレ大会として採用することができないかな、といつも思っているところです。
また、日本はオリンピック、パラリンピックの選手が大活躍しておりますが、今、大変興味深い取り組をしております。脳にセンサーをつけて運動した結果、オリンピックの選手は、トップアスリートでない限り、左脳にしか刺激がいっていなかったということがわかりました。ところが、パラリンピックの選手は、左脳も右脳も前頭葉も均等に刺激をして運動をしていることがわかったのです。障がい者は、ないところをあるものだと想像することによって体の素晴らしい能力を引き出すということが解明されました。囲碁や将棋のようなマインドスポーツを取り入れることで、右脳と冷静な判断をすることができる前頭葉が鍛えられていく。そのことによって、治癒能力と予知能力が変わっていくという現象が見られます。ペア碁が素晴らしい効果を表しているということを、スポーツ界はもっと発信をしていきたいと思っています。今後もしっかりサポートさせていただきながら、世界に発信していきたいと思っています」。

 最後は本戦出場の選手たち、世界学生ペア碁選手権出場の選手たちが紹介され、一堂が登壇。主催者、関係者の皆さんと、世界平和を謳う絵巻物のように勢ぞろいして記念撮影が行われ、一日目が終了しました。