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「世界ペア碁最強位戦 2017 本戦 一日目」本戦1回戦―A

対局はライブ中継された

14時。大竹審判長が「握ってください」と声をかけ、対局時計の位置を確認。そして、「はじめてください」の対局開始コールとともに、「本戦1回戦―A」が火蓋を切られた。
黒番は黒・陳ペア。陳九段はやや緊張しているように見受けられた。対する崔・朴ペアは落ち着いた様子で、自信のほどが伺えた。
対局室には盤面を映し出すモニター画面も設置されている。最前列を確保できなかったギャラリーの皆さんは、四名の息を感じながらモニター画面に見入って観戦を続けていた。

大盤解説会場では、趙治勲名誉名人と小川誠子六段がこの対局を担当した。開始早々、趙名誉名人の話芸は全開。「次の手がわかった方には、豪華賞品があります。小川先生との握手です。小川先生と握手したい人、手をあげて」と会場に呼びかける。皆、遠慮していると「あれ。一人もいないの?(会場、笑) 昔はみ~んな手をあげたんですよ。小川先生の人気もこんなことになってしまったんですか。もう一回聞いてみましょう。小川先生と握手したい人!」。今度は一斉に何百人ものファンが手をあげる。(会場、爆笑)。こうして、笑いの渦に巻き込みながら、瞬く間に会場を参加型の空気に温かくまとめあげてしまうと、名解説を繰り広げていった。

「韓国ペアは強いですよ。男性の朴さんももちろんですが、女性の崔さんが強い。男性のトップ棋士と変わりません」と趙名誉名人は紹介する。

では、ここからダイジェスト版で大盤解説を。
白26は「僕の頭では考えられない。このオシはあり得ない」と
趙名誉名人。
「僕なら白Aと左上の地を増やして、黒26とマゲさせます」

左上から、下辺に転戦し、黒47とワリコんだあたりで、趙名誉名人は、
「中華台北ペアは、実力的にちょっとかなわないのですが……ここまでは、黒が健闘してますね。うん。黒が優勢かもしれない」
と黒に軍配をあげた。しかし、次の白の手が打たれると、局面は一変した。

白50のツケ。
趙名誉名人は「素晴らしい! 本来なら、白は下辺を何か守るところですが、白はここ(白50)に打つために、左上を厚く打っていたのです」と絶賛した。
そして「この手を予想していた方はいますか?」と会場に質問。
すると、お一方が、手を上げた。
趙名誉名人「予想していた!? あなたは、相当な打ち手です。
それか、嘘つきか。(会場、爆笑)。では、黒は次にどこに打ちますか?」
手をあげたお客様「11の三(※Aのところ)」
趙名誉名人「おお。わかっていらっしゃいますね。僕はね、あなたが嘘をついたんじゃないかと思ってたんです。でも違った。僕が間違ってました。さあ、前へどうぞ。小川先生と握手してください。それとも、握手したくありませんか?」 手をあげたお客様「ぜひしたいです!」(そして、小川六段と満面の笑みで握手)
その後も小川六段は、「みなさん、やさしいですね」と少し照れながらも、大勢のファンと次々にこやかに握手をされていた。

さて、盤面に戻ると、白50の強手に対して、趙名誉名人は、黒AかBと頭を出していれば、まだまだ息の長い碁だと解説した。
 実戦は黒51と打ち、白52と封鎖された。
「黒51は、強い手でしたが、あとが続きませんでした」と
趙名誉名人。黒71から77まで、生きるために何手も打たされては、黒がつらい進行だったようだ。

このころ、応援にかけつけた張栩九段が大盤解説会場の
最前列に座っていた。張栩九段の姿を見つけた趙名誉名人は、
「あれ。こんなに強い人がいたら、僕は何もしゃべれなくなってしまいます」。そして「皆さんにご紹介しましょう!」
と張栩九段も巻き込んで豪華な解説となった。
この後は、白が盤石に打ち回し、結果は白番の崔・朴ペアの中押し勝ちとなった。

敗れた中華台北ペアは、肩を落としていた。
陳九段は「序盤で失敗してしまったのが悔やまれます。左上が全て」と言葉すくなに振り返った。
具体的には「白50と打たれる前に、黒が上辺に向かわなければいけなかった。黒51は、普通に打っていては形勢が悪いので、紛れるように難しく打ちました。左上はもう少しよい生き方もあったかもしれないが、見つからなかった」とのことだった。
黒七段は「布石で私がミスをしてしまいました。中盤に乱戦気味になったのですが、チャンスはありませんでした」と、こちらも悲しそうな表情だった。
でも、三位決定戦への意気込みを尋ねられると、「私たちは何回もペアを組んでいて、息は合っているので、明日は勝てると思います」と二人そろって、気合いを入れ直していた。

本戦・決勝戦に勝ち進んだ韓国ペアは、笑顔でインタビューに応じていた。
崔七段「今日は序盤がうまくいきましたので、そんなに苦戦しませんでした。決勝戦に上がって嬉しいですし、明日も面白い碁を打ちたいと思います。そして、明日は能楽堂で、民族衣裳を着ての対局なので、楽しみながら打ちたいと思います」
続いての朴九段のコメントは、報道陣をおおいに沸かせていた。
朴九段「昨日、崔さんから、相手の黒嘉嘉さんは大変美しい方なので、見ないようにと言われました。その忠告どおり、碁盤だけを見て戦ったのが勝因だったと思います」
これを聞いた崔七段は「あれは冗談だったのに、まさか朴さんが本当に一回も黒嘉嘉さんを見つめないとは思いませんでした」

そして、16時半。ファン待望の二局目の時間が迫ってきた。
韓国の最強ペアと戦うことになるのは、日本のどちらのペアになるのだろうか。

「世界ペア碁最強位戦 2017 本戦 一日目」本戦1回戦―B

大盤解説会場

対局場のギャラリーは、「1回戦―A」よりかなり増えた印象。4名の対局姿をじかに見たいファンが大盤解説室から移動してきたようだ。
しかし、大盤解説会場も満席。新たに足された椅子も次々と埋まっていった。
本局は、二十四世本因坊秀芳(石田芳夫九段)と吉田美香八段が大盤解説を担当。普段は辛口の石田九段が「格調高いよい碁だった」と絶賛した本局を、こちらもダイジェスト版で振り返ろう。

日本ペア同士の激突となった本局は、握って謝・井山ペアが黒番となった。
黒3から5の大ゲイマジマリは、AIの影響もあり、最近みかける布石。対して白6を、石田九段は「勝負にこだわっている」と表現した。
石田九段「何しろ、今回の大会は、2局勝って1000万円の賞金ですからね」

白14は「堂々としたトビ」。白20は「上辺の黒を攻める楽しみがある」。白22は「(25の)ハネもある が、堂々としている」と石田九段のコメント。
白46まで、「好勝負」だという。

6図

白60と隅で治まり、黒65まで、「いくらか白が打ちやすい」と石田九段の軍配は白に上がった。
なにしろ、白は左辺一帯と右上に地が多い。「白の実利に対して、黒は、右下の模様が大きいですよ、
と主張しているわけですが……」と石田九段が状況を整理したところで、次の手が打たれた。

7図

左下は手を抜いて、白66のトビ。
石田九段「堂々としてるね。どっちが打ったの?」
吉田八段「羽根先生が打たれそうな手ですけれど…」
ちなみに、このトビは、藤沢三段が放った一手だ。

8図

黒67の三々入りに対して、白が72、74から76とコウの形に持っていったのも素晴らしいと石田九段は絶賛した。
さて、このあたりが勝負のポイントだったようだ。
白78を、藤沢三段は「白80などとコウ立てを打ち、コウ争いを続けるべきでした」と振り返る。
白80のハネ出しは、白の狙い。だが、白84のツギに石田九段は異論を唱えた。
石田「白84は、上辺の黒を攻めようという手ですが、白はそんなに強い立場ではない。ここは攻めるよりサバくところだったと思いますよ」

9図

この石田九段の解説が的中し、黒85から、右下の攻防は攻守が逆転。白116まで生きることはできたが、「白は地で損をし、眼を持たされた悲しい生き」と石田九段。黒131まで下辺の黒地が大きくまとまりそうで、黒が優勢にたったようだ。

10図

黒135と右上のオサエに回って、石田九段は「白は下辺の黒を減らさなければ地合いが足りません」。そして、黒153まで、「白に逆転の芽はありませんね」と明言し、その後まもなく白が投了するところとなった。

局後、四名の対局者は大盤解説会場に登場し、客席からの大きな拍手で迎えられた。
そして、贅沢な大検討会が行われた。

井山九段は「少し苦しいかなと思っていました」と序盤戦を振り返り、右下の攻防の後も「ずっと難しかったのですが、最後はうまくまとめられました。下辺を囲って、味が悪かったのですが……実戦のような形でまとまれば」との感想だった。
ポイントとなった局面のやりとりは……
石田九段「この手(大盤解説会場で大好評だった白66)は、どちらが打ったの?」
羽根九段「里菜さんです」
吉田八段「そうだったんですか! すばらしい」
石田九段「では、この手(大盤解説会場で不評だった白84)は、どちらが打ったの?」
羽根九段「私です」(会場、笑)
そして、羽根九段は「途中からずいぶん苦しいことになってしまい、里菜さんは、軽やかな手を打ってくれたのですが、私が重々しく打ってしまいました」と申し訳なさそう。
だが、井山九段は「僕も重々しいタイプなので、(白84の)ツギを予想していました」と振り返り、謝も「私も(白84の)ツギを予想していました」。吉田八段が思わず「敵同士が気が合ったんですね」ともらして、会場の笑いを誘っていた。

11図

石田九段は、白84では、右図のように白1、3からサバく方がよかったのではないかと指摘。一例として、黒4から白9までとなれば、黒は上辺だけでなく、右上の黒も心配になる。
こうなれば、実戦より白がよかったと、一同納得していた。

石田九段は「名局だったと思います。白が堂々たる打ちっぷりで、少し白ペースかと思ったのですが……たぶん、敗着は羽根さんかな?」とまとめ、大きくうなずく羽根に、こんどは井山九段が「今日は、羽根先生、ありがとうございました」と会場を沸かせていた。

その後、井山九段は、改めて「たぶん、いろいろまずかったと思うのですが、謝さんが全てカバーしてくださり、このような結果になりました」と控え目に喜びを語った。

惜しくも敗れた藤沢・羽根ペアは、明日は三位決定戦に臨むこととなった。
羽根九段「今日の碁は、途中まで難しかったのですが、打ち過ぎから苦しくなり差がついてしまったのが残念です。明日は勝ちたい。ぜひ一回勝ちたいですね。しっかりミスのないように打ちたいです」
藤沢「今日は私に悪手があり、足を引っ張り、苦しくしてしまいました。明日は全力を出してがんばりたいです」

決勝戦に駒を進めた謝・井山ペアは、気を引き締めた様子だった。
謝六段「昨年は残念な結果でしたので、今年はリベンジしたいです。せっかく決勝戦に進出できたので、やはり優勝したいですね。優勝したいし、リベンジしたいし、いい碁を打ちたいです」
井山九段「明日は思い切ってやるだけです。精一杯がんばります」

主催

日本ペア碁協会 / 世界ペア碁協会 / 世界ペア碁最強位戦 2017 大会実行委員会