大会レポート

< 決勝戦 >

「プロ棋士ペア碁選手権2014(第20回記念大会)の決勝戦が、3月2日(日)に東京・市ヶ谷の「囲碁将棋チャンネル」で行われた。決勝の組み合わせは、矢代久美子六段・井山裕太棋聖・名人・本因坊・天元・王座・碁聖ペアvs向井千瑛女流本因坊・結城聡十段ペア。対局の模様は、3月28日(金)に「囲碁将棋チャンネル」にて「プロ棋士ペア碁選手権2014特別番組」として放送される。

矢代久美子・井山裕太ペアは、前回優勝の謝依旻女流名人・女流棋聖・小林覚九段ペアを二回戦で破って勢いに乗った。矢代六段は第1回大会から連続出場しているが、「優勝したことがないので、今回は期待しています」と謙虚に抱負を語った。タイトルを取りまくっている井山六冠も、ペア碁の優勝経験はない。1回戦直前の十段戦挑戦者決定戦で敗れたときには、「ペア碁の方で優勝します」と誓っていた。

向井千瑛女流本因坊・結城聡十段ペアの二人も、まだ優勝したことがない。ただし、結城十段は一昨年とその前と、二年連続で準優勝だった。「どちらも半目負けで悔しい思いをしました。今年は私たちが本命です」と宣言していたが、その通り決勝に進出してきた。

決勝戦会場風景

四人中三人もタイトル保持者が揃った豪華メンバーだが、なぜか新鮮に感じる。それだけ常勝だった謝女流名人・女流棋聖の存在が大きかったのだろう。新しいペア碁の女王になるのは矢代六段か向井女流本因坊か、期待が膨らむ決勝戦である。井山六冠と結城十段のサポート振りも注目された。

決勝戦会場風景 矢代・井山ペア、向井・結城ペア、解説の24世本因坊秀芳(石田芳夫九段)、聞き手の小川誠子六段が揃い、スタジオの準備が整うのを待った。滝裕子日本ペア碁協会常務理事も見守る中、決勝戦が始まった。

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< 対局開始 >

プロ棋士ペア碁選手権2014
矢代久美子六段・井山裕太六冠 向井千瑛女流本因坊・結城聡十段

スタジオの碁盤を前に四人が向かい合って座り、開始の合図で対局が始まった。事前の握りで矢代・井山ペアが先番である。小さなスタジオで四人が一つの碁盤を囲んでいると、ちょっと窮屈にも感じるが、碁が始まってしまうと激しい戦いの連続で、盤上がどんどん広がって行く。さすがは日本を代表するトップ棋士たちである。

碁盤を上から映すモニターには、四人の手が次々に伸びてくる。碁盤の四隅の側には小さなライトが設置されていて、手番が来ると点灯する仕組みである。対局者にとっては手番を間違えなくて助かるし、見ている人にもだれが悩んでいるのか、すぐに分かるので楽しい。そして、中盤で敵陣の石を動き出して戦いを始めたのは、黒番の矢代六段だった。白番の向井女流本因坊も受けて立つ。井山六冠も結城十段も突然激流に巻き込まれたように、激しく波にもまれ始めた。

矢代久美子六段・井山裕太六冠・向井千瑛女流本因坊・結城聡十段
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決勝戦を囲碁・将棋チャンネルで放映中 二十四世本因坊秀芳(石田芳夫九段)の解説。聞き手は小川誠子六段

解説の石田九段が一手一手、対局者の意図を説明しながら参考図を作り続ける。辛口で定評のある解説者だが、この日は四人の打つ手にうなずく場面が多かった。それだけペア同士の呼吸が合って、ハイレベルだったということだろう。「こんな激しい碁になると、ペア碁ではどちらかが一方的になるケースが多いものだが、今日は内容も濃くて素晴らしい」と誉めていた。

いつになく穏やかな誉め言葉が続くものだから、聞き手の小川誠子六段も突っ込みどころがなくて、にこやかなままである。終盤で小川六段が、「白ちょっと…」と話しを向けると、「苦しいんですけどね」と石田九段が応じて、こちらの呼吸もぴったりである。

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収録中スタジオ 別室でインターネットライブ解説

碁は中盤で大きなコウが始まって混沌、一つのコウが終わったと思ったら、さらに状況を複雑にしたのが井山六冠の一手だった。局面図、白1のアテに、黒2とオサえたのには、石田九段も、「まだコウがどうなるか分からないのに、戦線を拡大するのは井山さんらしい」と感心しきりである。白3のコウ取りに、黒4とハネてコウ立てにする。白7の切りに黒8とオサえて、白9の切りを迎え撃つ。コウ立ても複雑で、話しがどんどん大きくなる。難しいところを、あえて仕掛けていくのは、井山六冠の得意とするところだ。まるで井山六冠と結城十段のタイトル戦を見ているような、高等戦術が続いた。

参考図、黒6コウ取る(3の右)白17同
黒6コウ取る(3の右)白17同(3)

コウは白が勝ったが、中央をうまくまとめた黒が優勢になって、そのまま押し切った。先番の矢代・井山ペアが初優勝を飾った。石田九段によれば、「白にも十分チャンスがあった。それにしてもハイレベルの攻防で、女性棋士が強くなった証拠でしょう」と最後まで誉めていた。

勝者は矢代・結城ペア

矢代久美子六段「今まで優勝したことがなかったので、ほんとに嬉しいです。井山さんは棋戦で見ている内容だと、難しい手が多くて、付いていけるか心配していましたが、実際に隣で打っていると困ってもなんとかしてくれると思って、安心感がありました」

井山裕太六冠「ボクも初めての優勝です。ここ何年かはすぐ負けていたのでうれしいです。矢代さんにはハラハラさせたかもしれませんが、二人の読みも合っていてうまく打てました。一人では苦しい思いをすることが多いのですが、今日は楽しかったです」

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対局後の解説での矢代・井山ペア 対局後の解説での向井・結城ペア
プロ棋士ペア碁選手権2014
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