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プロ棋士ペア碁選手権2018

2018年3月4日(日) 決勝戦

ワクワク、ドキドキ

 3月4日(日)、待ちに待った決勝の日がやってきた。加藤啓子六段・井山裕太七冠ペアと鈴木歩七段・黄翊祖八段ペアの一戦はいったいどんな戦いになるのか。日本棋院東京本院には12時半の開場前から大勢のファンが詰めかけた。みなさん、ワクワクした気持ちに違いない。
 選手控室には開会式の30分ほど前から出場棋士が集まり出した。
 取材がてら、黄八段に「決勝へ向けて鈴木七段と練習しました?」と聞くと「いいえ」の返事。その黄八段が対戦相手である加藤六段に「加藤さんは練習したんですか?」と問うと「そんなまさか。多忙な井山さんと練習なんてとんでもない」と加藤六段が答えた。井山七冠は2月に決勝進出を決めたあとも、棋聖戦や世界戦で多忙な日程をこなしていた。
 鈴木七段が姿を見せ、黄と向い合せの位置に静かに座る。ふたりの前には碁盤があったので鈴木七段は「対局するみたいだね」とクスッと笑った。鈴木七段は「決勝は何度も経験しているけど、いつもドキドキする」という。井山七冠もやってきて、全員がそろった。

決勝戦会場に集結した出場者

 午後1時、2階ホールで開会式が始まった。日本ペア碁協会の滝裕子常務理事が「やっと春らしくなり、いい天気に恵まれました。2月10日、16ペア32人のトップ棋士のみなさんに戦っていただきまして、今日いよいよ決勝戦を迎えることになりました」と話した。

 続いて「すばらしい決勝になることを祈念申し上げます」と挨拶したのは国会議員の橋本聖子さん。オリンピックに通算7回の出場経験を持つ橋本さんは、JOC(日本オリンピック委員会)の副会長も務めており、2020年の東京五輪・東京パラリンピックが近づくなか、頭脳スポーツでもあるペア碁の取り組みに理解を示しているという。

 審判長の大竹英雄名誉碁聖は「好勝負を期待したい。ファンのみなさまには、囲碁の楽しさ、喜び、人と人とのつながりみたいなものを楽しんでいただきたい。素敵な時間をすごしてください」と話した。開会式では大盤解説を担当する石田秀芳二十四世本因坊と小川誠子六段(副審判長)、パンダネット解説の芝野虎丸七段も紹介された。

開会式で紹介された6名

「1人で独占せず2人で」

 決勝戦を前にした4人がファンの前で意気込みを語った。
 加藤六段は「今日は無心で打つ」という。「井山さんが七冠ということも、私が4人のなかで最年長ということも忘れます」とさっそく笑わせてくれた。井山さんは「先日、大竹審判長から独り占めはよくないといわれた。1人ではなく2人でがんばりたい」。鈴木七段は「まだ優勝は1回(2006年)だけ。黄さんと力をあわせて幸せな思い出をつくる」、黄は「井山さんはペア碁を含めた全冠制覇をしにきている。鈴木さんと一緒にがんばりたい」と語った。
 4人は対局会場の6階へ移動。女性同士の握りによって鈴木・黄ペアの先番に決まった。大竹審判長が「それでは始めてください」と告げて、決勝戦が始まった。

石田芳夫二十四世本因坊と小川誠子六段
満員御礼の大盤解説会

“名場面”の連続、大逆転で決着

 2階ホールでは石田二十四世本因坊と小川六段による解説会が始まった。ちなみに6階の対局会場は、棋士の様子や実際の盤上を間近から見ることができるほか、大型モニターに映し出されたパンダネットの画面で進行を確認することもできる。どちらもファンでいっぱいだった。
決勝は波乱の連続。いくつかの“名場面”を、解説会の様子と対局者の感想を交えながら紹介する。

試合中の鈴木・黄ペア
試合中の加藤・井山ペア
・1図(35-52)
 白が右辺を動いたときの黒35の転戦が珍しい。「これはソッポですよ」と語った石田二十四世本因坊は黒39の過激な切りを見て「えっ、切ったの?」とのけぞる。黒35と39はともに黄八段の着手だった。黄八段は「黒39は普通に打つと苦しいから、勝負に行った」という。白52とツケコして加藤・井山ペアの流れがいい。
1図(35-52)
・2図(75-84)
 黄八段の打った黒75の強襲を井山七冠は予想していなかった。白84とカケツいだ井山七冠の意図を加藤六段は理解できず「パニックでした」と振り返る。石田二十四世本因坊は「白のシノギ方はヘタを通り越している。ぜんぜん2人はかみ合っていない」。じつは井山七冠には重大な誤算があり、そもそも白84はいい手ではなかったようだ。「正直、だいぶ行けてるなと思ってました」と鈴木七段。
2図(75-84)
・3図(134-144)
 黒優勢となってから白番の加藤・井山ペアの息が合ってくる。加藤六段が白34とハネ出し、井山七冠が白36とマガる。鈴木七段の黒37は最善を逃したようだ。局後、大竹審判長が黒38とトブ手を指摘した。黄八段の黒39のアテが敗着。「あれっ、死んじゃったよ」と石田二十四世本因坊。白40、42のシボリが決まって44でぴったり生き。同時に右辺黒が取られてしまった。
 鈴木・黄ペアは、左下白や中央白を狙って必死にがんばったが、218手までで投了となった。
・3図(134-144)

「こんな素敵な仕事、いいの?」

 ペア碁は喜びをわかちあうパートナーがいるので、普段よりも一層うれしいもの。勝者の感想からはそれがにじみでていた。
 井山は「加藤さんのおかげで楽しく打てましたし、結果もよくて非常にうれしい」と話した。加藤は「自分に考えつかないような手を井山さんが打つのでとても勉強にもなった。最高。こんな素敵な仕事、いいんでしょうか」と感謝した。
 惜しくも優勝を逃した鈴木・黄ペアの感想にはじーんときた。敗着を打った黄八段が「本当に申し訳ない」というと、鈴木七段「直前に波乱を残す打ち方をしてしまった。きっかけをつくったのは私」と気遣った。

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