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プロ棋士ペア碁選手権2019

大会レポート 2019年3月3日(日) (決勝戦~表彰式)

キーワードは「楽」

 3月3日(日)午後、「プロ棋士ペア碁選手権2019」の決勝が東京・市ヶ谷の日本棋院東京本院で打たれた。対戦カードは、藤沢里菜女流三冠・一力遼八段ペアと大澤奈留美四段・許家元碁聖ペア。開会式、2階の大ホールに集まった大勢のファンへ、日本ペア碁協会の滝裕子筆頭副理事長が「きょうは足元の悪いところをようこそおいでくださいました。熱戦を期待して楽しみにいらっしゃったと思います」と話した。外は冷たい雨が降っていたが、会場はぎっしり。スター棋士が出場するプロ棋士ペア碁選手権は、大盤解説を楽しむもよし、対局室で観戦するのもよし。その魅力がファンを会場へと足を運ばせる。「大事なことは、解説を聞いたり、対局を見たりしてどこに感銘を受けるかです。素敵な時間を過ごしてください」と審判長の大竹英雄名誉碁聖。
 決勝を前に棋士たちがファンの前で挨拶した。
 藤沢女流三冠は「足を引っ張らないように自分らしく楽しく打ちたい」、一力八段は「みなさまに喜んでいただけるような楽しい碁をお見せしたい」、大澤四段は「みなさんに楽しんでもらえるようなワクワクするような戦いをしたい。許さんは完璧なので、それについていく。楽しんで頑張りたい」、許碁聖は「せっかく決勝まで来たので、精いっぱい頑張りたい」。4人のうち3人が「楽」をキーワードにした。
  午後1時54分、6階の対局室に4棋士が入室。手番を決める「ニギリ」が行われた。藤沢女流三冠が白石を握り、大澤四段が黒石を1個盤上に置いて「奇数先」の意思表示。白石は15個で、大澤四段・許碁聖ペアの先番となった。スムーズに準備が整い、予定の2時よりも少し前に対局が始まった。
 決勝戦のハイライトを大盤解説を担当した石田秀芳二十四世本因坊のコメントや対局者の感想を交えて紹介する。

AI流のツケ二段

1図(10 - 21)

 AIの影響を感じさせる序盤となった。白10、12のツケ二段はAI流のなかで最もプロ棋士に受け入れられている手法といえるだろう。白10で14とスベる旧来の定石はほとんど見なくなった。黒も19、21でツケ二段のお返し。スベる定石と比べて、ツケ二段は形が決まって含みが少ない。石田二十四世本因坊は「イメージとしては、AIは割り切って打つ。余韻は残さない」と解説した。

生意気?

2図(57 - 66)

 下辺から競り合いが始まり、戦いは中央や左辺に波及している。黒57のオサエを見た石田二十四世本因坊が「えっ、生意気やりましたね。どっちが打ったんだろ」と驚く。頑張った一手を打ったのは大澤四段。黒は中央の一団に不安を抱えているから、穏やかに打つなら57ではなく、黒59とノビるところだ。白は58とアテて62と躍り出す。「形勢はちょっと白かな」と石田二十四世本因坊。なお、白64でaは、黒b、白c、黒66、白dに続いて黒eとカケられて、白62の一子が逃げられない。

難解な変化

3図(82 - 94)

 白は左辺の黒三子を取り込む堅実な打ちぶりだったが、白82のハネは相手の反発を誘うような強い手。白83、黒82、白88なら無難だという。局後、石田二十四世本因坊の問いかけに対して、藤沢女流三冠が「あはは、(打ったのは)私です」と苦笑いした。黒83と切られて難解。大竹審判長は黒87で88とアテ、白87、黒90、白a、黒92と押す手順を指摘。石田二十四世本因坊は黒91と抜く前に94のアテと白bを換わるべきと解説した。局後の大盤解説会場で最も熱心に検討がなされた場面だった。

優勢を意識

4図(106 - 112)

 白6のブツカリに黒aとオサえるのは白bと切られて戦いきれない。黒7は好点。右辺を広げながら下辺の白を狙っている。しかし白8とコスミツけられると黒は受け方に困る。白12のフクレを打った一力八段は「黒を取るような展開になって、地になれば大きそうかな」と優勢を意識した。
 このあと黒はcとノゾいて白の眼形を脅かす。これがないと白dとワリ込む手段がある。

勝負手不発

5図(131 - 144)

 黒は31と出て勝負に出た。黒37で41の放り込みから形を決め黒aと下辺に襲いかかる手段があったようだ。パンダネット解説の大西竜平四段が指摘している(詳しくは「解説付き棋譜再現」参照)。許碁聖が敗着に挙げたのは黒39のサガリ。先に黒b、白a、黒43とワリツいで白cと換わったあと、のちの実戦と同じく黒dから眼を奪う。これなら下辺白のシノギもかなり難しかったという。
 実戦は白40が好手。白44とカカえられると、黒も中央の一団の切断を狙われて薄い。これでは下辺白は殺せない。大澤四段・許碁聖ペアはこのあと怒涛の攻めを見せたが、藤沢女流三冠・一力八段ペアが見事にシノいだ。180手完、白中押し勝ち。

まるで「一人で打っている碁」

 生きるか死ぬかの派手な決着。ファンを楽しませた4人が対局を終えて大盤解説会場に姿を見せると、ファンから大きな拍手が送られた。
「乱戦でしたが、一力先生がいる安心感がすごかった。なんとか自分も大きい錯覚をせず勝つことができて、うれしく思います」と藤沢女流三冠。一力八段は「序盤からほんとに難しい碁だった。藤沢さんがすごくうまく打ってくれて、一人で打っているときとあまり変わらない感覚で打てた。それが最期まで続けられた。うまく息を合わせて打てたと思います」と話した。
 許碁聖は「ずっと難しい戦い。でも押されてる場面が多かったので、結果は仕方がないかな」、大澤四段は「きょうの碁は残念でしたが、決勝までこられてよかった。許さんがリードしてくれてとても楽しく打てました。いいペア戦でした」と振り返った。
 優勝した藤沢女流三冠・一力八段ペアは、8月に予定される「世界ペア碁最強位戦2019」に日本代表として出場する。
 一力八段の感想にあった「一人で打っている」というのは、石田二十四世本因坊も解説会で指摘しており「藤沢・一力ペアはほぼ完璧」と絶賛していた。石田二十四世本因坊が、4人の前で「ケタ違いのコンビネーションだった」と話すと、大澤四段が「ぜひ、世界戦で優勝してほしいです」。この一言に会場のファンも反応して、拍手が沸いた。
 世界戦への期待が膨らむなか、大会は幕を閉じた。

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