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● リコー杯1999 第1回戦・第2回戦 ● |
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リコー杯プロ棋士ペア囲碁選手権1999は12月12日、東京・恵比寿のザ・ガーデンホールで開幕した。5回目を迎え、囲碁界の華の祭典として定着しつつあるリコー杯。出場16組がこの日1、2回戦を行い、 600人を超すファンが見守るなか、昨年優勝の青木喜久代七段・本田邦久九段ペアら8組が準々決勝に進出した。 |
![]() 青木喜久代七段・本田邦久九段ペア |
5回目ともなると、プロ棋士もかなり要領が分かってきて、開幕前の緊張感、各選手の真剣な顔つきはかなりのもの。藤沢秀行審判長の合図で、1回戦8局が始まった。 早々と勝ち名乗りを上げたのは、祷陽子四段・石田芳夫九段ペア。はじめ小声で始まった検討だったが、次第にボリュームも上がってきた。途中まで順調だと思っていた石田九段、「(42手目・祷四段の手番で)一間に飛ぶとこを押さえちゃったもんだから。(黒43と切られて)こっちは薄いわ、あっちは攻められるわ」と苦笑しながら身をよじる。 ふつうなら、そこで終わりというのがプロの対戦だが、そこはペア囲碁の妙で見事逆転勝ちに。 |
![]() 祷陽子四段・石田芳夫九段ペア |
1回戦の勝敗が次々と決まり、2回戦が始まるまでの休憩時間に吉田美香女流本因坊・小林覚九段ペアが笑いを振りまいた。 吉田女流本因坊「あの、覚先生……。それが気になっちゃって」と小林九段の足元を指す。なんと新調したての靴。かかとに値札が付いたままだった。「何だ、早く言ってくれればいいのに」と照れる覚九段。「実は時計と靴下以外は、きのう新しくそろえたんですよ」と言う。もちろん、それはある狙いがあったから(囲碁ファンならすぐお気づきのはず)で、しかも深い読みが隠されていたのだった。その読みは、最後に披露していただく。 |
![]() 吉田美香女流鶴聖・小林覚九段ペア |
さて2回戦に移って、ここでは波瀾があった。優勝候補の呼び声高かった小林泉美女流棋聖・光一九段の親子ペアが2連敗で姿を消してしまったのだ。対戦相手は杉内寿子八段・結城聡九段ペア。2回戦屈指の好カードだったと言ってもいい。棋聖挑戦を決めたばかりの光一九段。気力、体力も絶好調と思われたが、ペア囲碁となると勝手が違う。 局後に光一九段「(三年前に優勝したころは)8連勝までしたんですけどね。やあ、相手は強いですよ」 |
![]() 杉内寿子八段・結城聡九段ペア |
![]() 小林泉美女流棋聖・小林光一九段ペア |
審判の一人、M・レドモンド八段は、ペア囲碁のコツについて「パートナーが打った手をいかに生かしていくか」こう話している。囲碁の着想、構想力は個人差がある。そして、どちらかがリードしていくというよりも、お互いにパートナーの手を生かそうとする方がいいようだ。ただ、これはアマチュアの大会だと楽しむ余裕も出てくるが、プロ棋士が打つと、どうやら雰囲気が違う。 「相手が強いから、こちらも目一杯の手を打たないと……」と光一九段は感想を残していたが、これは泉美女流棋聖の手にわずかな緩みを感じ、「これはいかん」と思ったからにほかならない。実はそう感じるのも、勝負に生きるトッププロの宿命と言える。しかし、そうなると空中分解してしまうのがペア囲碁の難しさだ。 もう一人、トッププロの厳しさを体から発散していたのは趙治勲棋聖・名人・本因坊だった。小林千寿五段とペアを組んで2連敗。半分やけになって「もう来年は(選手として)呼ばないで」とコートをまとって会場から出てしまった。ところが……。しばらくしてニコニコしながら戻ってきた。「することないから戻って来ちゃった」。 このカラリとした一面も趙棋聖の良さ。続く準々決勝進出決定戦(敗者復活戦)が始まると、「解説でもしようか」と名乗り出て、武宮正樹九段とコンビを組んで、モニター画面で即席解説会を開いてくれた。これには 600人のファンも大喜び。開幕初日が大いに盛り上がった。 |
![]() 小林千寿五段・趙治勲棋聖ペア |
さて、一昨年は大竹英雄九段と組んで、ハワイでの決勝戦まで進んだ佃亜紀子三段。今年は王立誠王座と組んで2敗してしまった。やはり勝つということは大変。これまでのことを佃三段に振り返ってもらうと、勝った対局というのは、意外にも相手ペアが自ら転んでいったケースが多かったようだ。小林光一九段の記憶でも、「そう言えば、(8連勝中も)随分危ない碁が多かった」と話している。勝ち負けは基本的に運任せのところがあるものの、運を上昇させるコツは、やはりレドモンド八段が言うように、互いにパートナーの打つ手を大切にして、勝つことを意識しないこと。単純だがこれが一番の作戦なのかもしれない。 |
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ベスト8が出そろったところで初日の閉会式。ここでベストドレッサー賞が発表された。ファンによる投票で、総数 238票のうち91票を獲得した吉田美香女流本因坊・小林覚九段アに決まった。これは、覚九段の読みがずばり当たったのだという。 覚九段「この賞は9割以上女性で決まるんですよ。それで考えたんですが、昨年は梅沢由香里さんが賞をもらって、次点は吉田さんでした。そろそろ吉田さんに来てもおかしくないですよね。あとは脚を引っ張らないように私が準備すればいい」。前日に衣装を調達したのも、これが理由だった。ちなみに次点は梅沢由香里二段・工藤紀夫天元ペア(42票)で、プロの読みの深さに関心させられた。 |
![]() 梅沢由香里二段・工藤紀夫天元ペア |
この吉田・小林ペア、実は二人の個性が強すぎて初日2連敗と予想する声があった。ところが、フタを開けてみれば2連勝。この調子を決勝まで維持することが出来るかどうか。 準々決勝、準決勝は12月19日、東京・六本木のラフォーレミュージアム六本木で。 |
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取材 横内 猛 |