リコー杯プロ棋士ペア囲碁選手権

● リコー杯1999 決勝戦結果 ●

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連続優勝


青木喜久代七段・本田邦久九段ペア



リコー杯・プロ棋士ペア囲碁選手権1999の決勝戦は1月9日、東京・目黒区の恵比寿ザ・ガーデンホールで行われ、昨年優勝の青木喜久代七段・本田邦久九段ペアが西田栄美女流名人・柳時熏七段ペアに先番、4目半勝ちして2年連続優勝を果たした。優勝賞金は 500万円、うち 100万円は全国の小中高校から希望を募り、囲碁用品を贈るチャリティー資金に充てられる。

ごあいさつ
実行委員長 浜田 広
(株)リコー代表取締役会長

ごあいさつ
審判長 藤沢秀行
名誉棋聖

副審判長
小川誠子六段(右端)
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リコー杯は1回戦から公開されており、この日詰めかけたファンは約 600人。藤沢秀行審判長が「勝負は分からないが、女性はどちらも負けん気が強いから、最後まで面白い展開になるでしょう」とあいさつすると、会場はファンの熱気に加えて緊張感も増す。最後の勝負にかける両ペアも心なしか表情が硬く見える。ここまではプロのタイトル戦に共通した雰囲気だ。ところが、リコー杯は少し趣が違う。それは吉田美香女流鶴聖と小林覚九段のペア囲碁ならではの大盤解説だった。

対局前の花束贈呈
滝 裕子(財)日本ペア囲碁協会理事


決勝戦対局ペア
西田栄美女流名人・柳 時熏七段ペア

決勝戦対局ペア
青木喜久代七段・本田邦久九段ペア
舞台の左手でピリピリした対局、右手で和やかな解説が始まる。
小林九段「(吉田女流鶴聖とのペアを組んで準々決勝まで進んだとき)決勝戦に何を着て行こうか悩んだくらいなんですけど。解説に回ったのは残念でしたね。ところでペア囲碁って何が面白いんでしょう。私は最初のころパートナーに気を遣って、こんなに疲れるものはないと思ってたんですけど、最近は気にせず打つようになったんです。すると面白くなってきた」
吉田女流鶴聖「ええっ、そうですか。私は覚先生が何を考えてるのかとか、そんなことばかり気にして打ってました」


大盤解説
解説:小林 覚九段 聞き手:吉田美香女流鶴聖
半ば漫才のようなやり取りに、初めは会場のファンが戸惑っている感じさえあった。「賞金のかかった決勝戦で、こんなに和やかでいいのだろうか」と。ところが、しばらくすると、小林九段や吉田女流鶴聖の何気ない一言につられて、会場から笑いがこぼれはじめる。実はこれが小林九段の意図していたペア囲碁ならではの解説だった。

会場風景
もともと、リコー杯はペア囲碁の楽しさをアピールするために創設されたタイトル戦。今年5回目を迎え、プロ棋士にもその楽しさ、魅力が浸透してきている。準々決勝が終わったとき、小林九段が「こんなに面白いのだから、年1回では待ちきれない。最低でも2回ぐらい開いてほしい」と感想を漏らしたのも、ペア囲碁は勝負を争うものでなく、楽しむものであると理解しているからだろう。もちろん、ペア囲碁でも対局中は真剣そのものだが、真剣さの質が異なる。日頃1対1の勝負で身も心もすり減らしているプロ棋士。そんな勝負師たちが、童心に帰って囲碁を楽しむことができる。リコー杯はそんな大会でもあるのだ。

600人のファンがつめかけた

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さて、対局の方は両ペアとも絶妙のコンビネーションを見せて一進一退の展開が続く。中盤を過ぎると小林九段の解説も熱が入り、一手一手の進行に釘付けになっていく。「なかなかの名局。ボクらが(敗退して)ここに(解説役として)いる理由が良く分かりますね。この2チームは強い」と舌を巻いた。
この対局はパンダネットからリアルタイムで棋譜が公開されており、 200人を超えるファンもネット上で進行を見守る。

封じ手記入
本田邦久九段

来場のお客様に、次の一手の予想
岡田結美子四段
101手目(5三)、青木七段が打ったコスミから 109(8七)と上辺の白を攻めたててついに黒が主導権を握る。ハイライトは 132手目(16十一)、柳七段が放った勝負手だった。右辺の黒模様が大きくなり、単騎突入した場面。これが生きてしまえば西田・柳チームの逆転大勝利だ。しかし小林九段「これを打ったのは柳君ですね、きっと。これは4畳半に10人住んでいて、まだ中に入っていくようなものなんです」。
もちろん柳七段にとっては無理は十分承知のことだし、これが最後の勝負所。しかし、さすがに前回優勝ペアの的確な応対に勝負手は不発。青木・本田ペアが見事に収束して連続優勝の栄冠を勝ち取った。

優勝 青木喜久代七段・本田邦久九段ペア

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優勝後のインタビューを受けた本田九段「青木さんとパートナーを組むと負ける気がしません。私が無理な手を打っても、ちゃんと止めてくれるんです。また(来年も)狙いましょう」と、いつになく言葉が弾んだ。

講評 審判長
藤沢秀行名誉棋聖

局後の検討
そして吉田女流鶴聖が「青木さんは、この1月15日に結婚を控えてます。この優勝が花を添えることになりました」と水を向けると、会場から祝福の拍手が響き、青木七段は恥ずかしそうに満面の笑みをこぼしていた。
次の一手当選者抽選会 優勝ペアより、本大会ロゴ入り「リコートラベルウオッチ」

柳 時熏七段より
サイン入り自著本「囲碁に燃えて」

小林 覚九段より
サイン入り自著本「小林覚の世界」
さて優勝ペアは次回も同じパートナーで参加することになっており、早くも来年の大会を心配する声がある。この日の大盤解説の途中、吉田女流鶴聖でさえ「もし青木・本田ペアが優勝してしまうと、また来年同じペアですよね。すると永遠不滅のペアということに……」と真面目な顔で心配していたほどだ。 しかし、規定によって連続優勝ペアは次回に新しくペアを組み直すことになっている。もちろん、抽選で同じペアができる可能性はあるわけで、早くも次回の組み合せ抽選会が楽しみだ。

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■優勝ペア表彰
日本ペア囲碁協会から賞状贈呈
吉國一郎(財)日本ペア囲碁協会会長
リコー杯及び賞金500万円の目録贈呈
浜田 広(株)リコー代表取締役会長
日本棋院より賞状贈呈
岩田 一(財)日本棋院常務理事
読売新聞社より賞状贈呈
本池滋夫読売新聞社事業局次長

■準優勝ペア表彰
日本ペア囲碁協会から賞状贈呈 吉國一郎(財)日本ペア囲碁協会会長
記念品贈呈 小型軽量高級カメラ「リコーGR10」 浜田 広(株)リコー代表取締役会長

読売新聞社より賞状贈呈 本池滋夫読売新聞社事業局次長

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喜びいっぱいの優勝ペア
青木喜久代七段・本田邦久九段
取材 横内 猛

決勝戦棋譜

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