第30回国際アマチュア・ペア碁選手権大会

第30回国際アマチュア・ペア碁選手権大会

観戦レポート / 1日目( 12/7 土 )

大会アルバム・観戦レポート

 1990年に誕生した「ペア碁」は、平成の時代に愛され続け、世界中にファンの輪を広げていきました。そして迎えた令和最初の年、12月7、8日の両日に、「第30回国際アマチュア・ペア碁選手権大会」が、華やかに和やかに、東京・飯田橋のホテルメトロポリタンエドモンドで開催されました。世界20カ国・地域から出場した32ペアの強豪たちが「アマチュア・ペア碁の世界一」を目指した熱戦の模様、同時開催された「荒木杯ハンデ戦」、「第6回世界学生ペア碁選手権大会」、そして、今年7月に世界で初めて行われる「ペア碁公式ハンデ戦」の「プレ大会」の模様をレポートします。

●大会一日目

 大会初日の午前中は、本戦と「ペア碁公式ハンデ戦プレ大会」がスタートしました。会場には、10時前から選手の皆さんが次々と到着され、ペアで写真撮影をしたのち、1回戦の組み合わせの抽選を引いていきました。再会を喜び歓声をあげ、抱き合ったり握手をしたりという光景も見られるなか、ドギマギした様子で緊張気味の選手たちも。会場は少しずつ張り詰めた空気になっていきました。

 10時40分、開会式がスタートしました。
 滝裕子日本ペア碁協会筆頭副理事長のごあいさつです。
 「おはようございます。滝でございます。皆さんとお会いできるのは一年に一回なのですが、こうして30回ともなると、万感迫るものがございます。30周年を迎えることができたのは、本当に皆さんがペア碁を愛して楽しんでくださって、そして世界中の皆さんがペア碁を応援してくださっているおかげだなあとつくづく思っております。ペア碁は世界中に広まりまして、現在75カ国・地域の皆さんが、『ペア碁協会』に所属してくださっています。言葉は違ってもお国は違っても、盤上で親しく、真剣に、そして楽しく戦ってくださって、そしてそのあと和やかに穏やかに楽しく検討してくださっている。その姿を見るのが私は何よりも大好きです。今年は30周年で、改めてペア碁の楽しさや素晴らしさを感じられる大会にしたいと思っております。そして来年は2020年。東京でオリンピック・パラリンピックが開かれる年でございますので、ペア碁という『マインドスポーツ』を通して、囲碁というものの魅力を世界の皆さんにアピールしていきたいと思っております。

 今日と明日戦っていただき優秀な成績を収められる2組のペアを、2020年のワールドカップにご招待させていただきます。また、プロの大会も、大変な人気のある中国の柯潔九段、韓国の朴廷桓九段、日本の井山裕太九段をはじめとするトップ棋士の方々にご参加いただいて、世界の強豪の皆さんもご招待させていただいて、盛大に楽しくしていきたいと思います。
 最後に、2020年ならではという準備を少しさせていただいておりますのでご紹介いたします。囲碁は、ハンディキャップをつけることで対等に打てるという大変な魅力がございます。その魅力をなんとか生かそうと思いまして、パンダネットが提供しておりますレーティングシステムを使った公式のハンディキャップのペア碁トーナメントを準備しております。今日は、そのプレ大会も開催いたします。
 真剣な戦いを控えておりますなか、少し長くなってしまい申し訳ございませんでした。今日は真剣勝負の後、親善対局、前夜祭もございます。私たちもない知恵を絞って一生懸命計画しておりますので、ぜひ皆さん、この30周年をお祭りと思って、どうぞお楽しみくださいませ。
 では、どうぞ試合をがんばってください。どうもありがとうございました。」

 続いて、大会一日目の審判長、マイケル・レドモンド九段が登壇され、日本語と英語でルール説明をされました。持ち時間は本戦が60分、「公式ハンデ戦」が40分で、時間切れは負けとなります。

 そして11時、レドモンド九段の「開始コール」があり、いよいよ、世界一華やかなペア碁の真剣勝負がスタートしました。

 本戦には、それぞれ予選を勝ち上がった海外ペア20組と、国内ペア12組(1組はパンダネットペア碁チャンピオン)が出場しました。厳選な抽選ながら、前年まではなぜか日本ペア同士が1回戦からぶつかることが多かったのですが、今大会では、日本VS.日本は2局のみとなりました。日本ペアVS.海外ペアが14試合。さて、どんな結果になったのでしょう。

 関東・甲信越ブロックの予選を1位通過した注目の藤原彰子・津田裕生ペアはベトナムのペアと対戦。藤原さんは「序盤で私が間違えてしまい、形勢が悪いところから始まったのですが…どちらかというと、相手の時間がなくなってきて相手が崩れてくれた感じです」と反省しながらも、白星にホッとした様子でした。二人は共に院生出身で現在は早稲田大学の学生。津田さんは、にこやかな表情で「藤原さんとペアを組んだのは今回が初めてですが、院生時代から知っている仲なので」と何も心配していない様子でした。

 その後も、日本ペアの白星が続いていきました。
 「相手は、最近の布石もよく研究していて強かったです」と振り返ったのは、グアテマラペアに勝利した中国ブロック代表の竹野麻菜美・小野慎吾ペア。竹野さんは「勝ててホッとしました」と笑顔を見せ、「小野さんとペアを組むのは三回目。安心感があり楽しかった」と信頼関係を勝因にあげていました。
 近畿ブロック代表の今村康子・江村棋弘ペアは、局後の会話が漫才のよう。ロシアペアに勝利して、江村さんが「いい勝負でした。細かかった」と話すと、今村さんが「10目半勝ちや。細かくはなかった」。何でも言い合い、笑いの絶えない雰囲気で、こちらも信頼関係抜群でした。
 四国ブロック代表の仁村天・木原俊輔ペアは、ニュージーランドペアに勝利。仁村さんは「本戦に出場するのは初めてです。楽しみたいです」。木原さんは「パートナーとの相性は素晴らしいと思います」と笑顔で話され、二回戦に向けてはずみがついたようでした。

 「今年は、韓国ペアももちろん強いけれど、中国ペアもかなり強い」と対局前に話していたのは、本大会で優勝決定戦に勝ち上がったこともある関東・甲信越ブロック代表の小田彩子・永代和盛ペア。なんと、その「かなり強い」中国ペアと激突することとなりました。男性の胡煜清さんは「世界アマ」で二度の優勝経験がある有名な強豪です。個人戦で痛い目に合っているという永代さんは、「わあ、1回戦から……」と、どことなく不安そう。その不安が盤上に表れてしまったか、序盤はやや優勢に打ち進めながら手所でミスがあったとのこと。惜しくも黒星発進となりました。

 本戦出場選手の中で最年少だったのは、九州・沖縄ブロック代表の永井美安佳さん。「アニメの『ヒカルの碁』を見て囲碁をはじめました」と話す、まだあどけなさの残る小学校6年生です。お母さんはルーマニア人の外科医で永井さんも将来は医者になりたいとのこと。同じ宮崎県で永井さんを見守ってきた強豪、山本淳さんは「彼女が強くなってきたので」ペア碁参戦を決断され、パートナーにと誘ったそうです。ただ、1回戦は、惜しくも東北ブロック代表の平岡由里子・平岡聡ペアに敗れてしまいました。

 1回戦を終え、日本勢12ペアは、9勝3敗。素晴らしいスタートを切りました。

 一局打ち終えて緊張がほぐれたのでしょう、勝ったペアはもちろん負けたペアも、皆さん笑顔。通訳のスタッフを呼んで熱心に検討したり、対戦したペアと4人で記念撮影をしたり、対局中とは一転、和やかな時間が流れ、昼食休憩に入りました。

 海外ペアもご紹介していきましょう。
 ヨーロッパペア碁チャンピオンとして出場した、ロシアのナタリア コヴァレヴァ・ドミトリー スリンペアは、本大会の常連です。コヴァレヴァさんは笑顔が素敵で、負けず嫌いなコメントもチャーミングな方。ロシア囲碁協会副会長でもあり、ペア碁の普及にも力を尽くされています。スリンさんは「囲碁の大会があればすべて出場したい」と話す囲碁インストラクター。お二人のペアはヨーロッパでは群を抜いて強く、しばらくは「チャンピオン」の座を譲らなさそうです。

 ロシアからは、もう一組、エルヴィーナ カルスバーグ・ステパン トゥルビツィンペアも参戦しました。「ロシアで30ペアの予選大会を戦ってきました。優勝はナタリアとドミトリーのペア。私たちは三位でした」とのことです。囲碁インストラクターのカルスバーグさんは穏やかな笑顔を絶やさない方。エンジニアのトゥルビツィンさんは「よく覚えていないのですが、今から17年前の12歳のころに、父が碁を打っているのを見て自然に覚えたんだと思います。チェスはもっと小さいころからやっていました」と話し、「ロシアでは、チェスが強い人が碁も覚え、そのまま碁が強くなって、チェスより碁に夢中になる、というパターンが多いと思う」と教えてくれました。

 さて、しっかり休養を取り、14時、本戦2回戦が始まりました。勝者ペア同士、敗者ペア同士の組み合わせとなるため、1回戦より接戦になるのは必至。何局もの熱戦が繰り広げられました。

 最も注目を集めたのは、優勝候補の韓国ペアと中国ペアの一戦でした。「こんなに早く当たるとは思っていませんでした」と局後に振り返ったのは、韓国の男性、許榮珞さん。前年に圧巻の強さで優勝をさらい、今回も新しいペアと連覇を狙っていた許さんは「中国の胡煜清さんのことは、世界戦で優勝されていましたので、昔から知っていました。僕たちは、これが決勝戦のつもりで打ちました」と明かします。まず優勢を築いたのは中国ペアだったようです。その後、韓国ペアが決め手を与えず粘り抜いて、ついには逆転して2目半勝ち。許さんは「苦しかったです。最後まであきらめなかったことが勝因です」、ペアのリ ルビさんは「パートナーがうまくリードしてくれました」とそれぞれホッとした様子で勝利を喜んでいました。

 近畿ブロック代表の澤田純子・深山雅章ペアは、ヨーロッパペア碁チャンピオンペアと対戦。こちらも大熱戦を、澤田・深山ペアが見事に逆転して白星を重ねました。深山さんは「苦しかったです。粘って粘って、だんだん紛れてきて…」と興奮冷めやらぬ様子。そして「相手のペアは強い。10回対戦したら、私たちが負け越すだろうなというイメージです。今勝てたのはたまたま。ラッキーでした」と謙虚なコメントを加えられました。
 ちなみに、この「10回対戦したら、私たちが負け越す」の言葉を、その後に対戦相手のコヴァレヴァさんにお伝えすると「私もそう思います。とても残念な敗戦でした」と笑顔で即答。「残りの試合もがんばってください」と伝えると「もちろんよ」とやはり笑顔で即答がかえってきました。

 日本勢同士、北海道ブロック代表の渡部春妃・保坂龍ペアと関東・甲信越ブロック代表の辻萌夏・山田真生ペアの一戦も大熱戦となりました。「昨年からペアを組み、本戦に出るのは初めて」と張り切る北海道ペアは、いろいろ作戦を立ててきたようでした。「序盤に『2の2』に打ったり……考えてきた作戦はそこそこうまくいき、途中チャンスはあったと思います。とにかく大乱戦でした」と保坂さんは敗れても満足そう。その大乱戦を制した辻・山田ペアは「今までにない手をバンバン打ってきて……『2の2』だけはわからなかったのですが、あとは何とか対処できたかな。でも、勝負所は難しすぎ。誰が間違えてもおかしくない、という難しさでした」と振り返っていました。

 かくして本戦は、熱い熱い2回戦が終了しました。二連勝で一日目を終えたペアは8組で、このうち7組が日本ペアという結果でした。

 本戦と当時にスタートした「ペア碁公式ハンデ戦 プレ大会」について、開会式での滝裕子日本ペア碁協会筆頭副理事長のごあいさつの中でもご説明がありましたが、もう少し詳しくご紹介しましょう。
 日本ペア碁協会と世界ペア碁協会主催により、今年2020年7月2日から6日の日程で、トッププロ棋士とアマ強豪ペアが参加して「ペア碁世界一」を決める「ペア碁ワールドカップ 2020JAPAN」が渋谷にて、世界各地のアマチュアが参加する公式レーティングによる「ペア碁公式ハンデ戦」が熱海市にて開催されます。
 これに先立ち企画されたのが今回の「公式ハンデ戦 プレ大会」で、国内外の特許を持つパンダネットのレーティングシステムを採用した、世界初のペア碁公式ハンデ戦となります。今回は、9カ国・地域から、合計8ペア、16名が参加しました。
 日本から参戦したのは、関東甲信越ブロック予選のハンデ戦Cブロックで優勝と準優勝だった2ペアです。
 木村真子・岡崎匡紘ペアは7級と二段★、上野美里・村川啓ペアは16級と八段★という棋力。1回戦のお相手はそれぞれ、ベルギー・オランダペア(三段と初段★)、タイペア(四段と二段)。棋力はバラバラながら、置石の数だけでなく、「コミ」の数でも微調整されたハンディキャップにより、対等な勝負になるわけです。こちらの2対局は、いずれも日本ペアが勝利をおさめました。

 「公式ハンデ戦 プレ大会」は、持ち時間が本戦の「60分」より短い「40分」のため、進行が早く、13時から2回戦、14時40分からは3回戦が打たれました。

 そして、アメリカのリサ スコット・アンディ オークンペア(4級と1級★)が見事な三連勝をとげ、優勝を決めました。スコットさんは作家、オークンさんはアメリカ囲碁協会会長です。
 お二人は、「大会前は、置石のあるペア碁がどうなるのか想像できなかったのだけど、実際に打ってみたらとても楽しかったわ」、「とてもよかったよ。私たちが置いた対局も、置かせた対局もあったのだけど、どちらも面白かった」と大興奮。お二人は、「一局目は大きな戦いが起きて、私たちは真剣に打ちました」「二局目と三局目は細かかった」「でも攻め合いになって、その戦いに勝ったおかげで勝負にも勝てたんだと思う」と、熱戦の模様も熱く語ってくださいました。

 優勝したアメリカペアに二回戦で敗れ、惜しくも二位となったのは木村・岡崎ペア。岡崎さんは「アメリカペアはお二人とも全然強くて、とても『級』とは思えませんでした」と脱帽しながらも「楽しかった」とにこにこ顔でした。木村さんも「相手が日本人でも外国人でも同じように楽しかったです!」と満面の笑み。「それに、私たち、マレーシアの缶切りや、碁盤が描き込まれたアメリカの旗のバッチや、いろいろいただいちゃったんです!!」と思いがけない海外ペアとの局後の交流も楽しんだようでした。

 この「プレ大会」は、一日のみの日程でしたが、選手の皆さんは、翌日の「荒木杯ハンデ戦」にも参戦して存分にペア碁を堪能されていました。

 大会一日目の14時からは、「第6回世界学生ペア碁選手権大会」も開幕。世界11カ国・地域から16ペア32名が参加し、学生ペア世界一を目指しました。「本戦」同様、この「学生ペア碁」も例年韓国勢の強さが光っています。前年も一位、二位を韓国ペアが占めました。今回はどんな結果が待っているのでしょうか。
 日本からは前年同様、大学生4ペア、高校生1ペアが参戦しました。皆さん強豪なのですが、世界の面々も強豪ぞろいです。毛塚瑛子・石田太郎ペアは中国ペアに、倉科万以子・平松慶己ペアはタイペアに、田中ひかる・横山碧琉ペアはチェコペアに、それぞれ黒星発進となりました。

 優勝候補の韓国ペアを相手に波乱に満ちた一局を制したのは、齊木果穂・栗田佳樹ペアでした。国内の一般アマ棋戦でも活躍する栗田さんは、「ペア碁を打つのは初めてです」と話していた前年に続いて二度目の出場です。局後は「中盤に相手が半ツブレになって(勝勢になったのですが)、でもそこから追い上げられて、さらに最後に僕がミスをして8目損をして、半目残っていたんです」と興奮気味。これを聞いていた石田さんに「それって、普通は半目負けるパターンだよね。こうなったら、優勝するしかないね」と声をかけられ、愉快そうに笑い合っていました。
 その石田さんに中国ペアとの戦いを振り返っていただくと「女性が男性と同じくらい強い。隙がないなと思いました」とのこと。そして「僕らは両方弱いので」とお茶目なコメントも加えていました。翌日には「実は、切れ負け(※秒読みはなく、持ち時間が切れたと同時に負けになること)だと知らなくて、途中で思い切り時間を使ってしまって」という小さな(大きな?)失敗談も苦笑しながら話されていました。

 数々の熱戦の余韻が充満するなか、一日目の全対局が終わりました。
 選手の皆さんはいったん会場を離れます。
 そして、それぞれ民族衣裳に着替えられ、集まってきました。

 親善大会には、三大会の選手の皆さん、大会を応援する関係者の方々、そしてボランティア参加の棋士の皆さんが一堂に会しました。つい先ほどまで緊張に張り詰めていた空気が嘘のように、会場中が一気に華やぎました。

 「ペア碁大会は、友だちをつくるのにもとてもよいね」とご機嫌だったのは、本戦ドイツ代表のベルント ラートマッハさん。「これは19世紀のプロイセン帝国時代の軍人の服だよ」と胸を張りました。パートナーのカレン ションベルクさんの服も「同じ時代の典型的な衣裳」だそうです。

 「フランスは、特に民族衣裳というものはなくて、『地方の衣裳』ということになるのよ」と教えてくださったのは、「ペア碁公式ハンデ戦」出場のドミニク コルニュジョルさん。「私の衣裳はドフィネ地方のものです」。そして、本戦出場のフランスペアを指して「彼女たちはパリの人ね。ナポレオンにマリー アントワネット」。三局打ち終えたばかりの疲れは全く感じさせず、終始にこやかでした。

 さきほどもご紹介した本戦ロシア代表のトゥルビツィンさんは、衣裳に加え大きな小道具を携えて現れました。ロシアの地方の「伝統的な楽器」だそうです。このあとの親善対局の間、お守りのように碁盤の横に置いていらっしゃいました。

 そういえば、サッカーワールドカップでドイツが優勝した年は、ドイツ選手団全員がサッカーのユニフォームを揃えていました。今年は…と見まわすと、いましたいました、本戦ニュージーランド代表のファガス ローチさんが、ラグビーのユニフォーム姿。「『オールブラック』ですね?」と問いかけると、「そのとおりです。今年は日本でワールドカップがありましたね!」と優しい笑顔が返ってきました。

 お互いに写真を撮り合い、衣裳を鑑賞し合い…という和やかな時間がしばし流れたのち、皆さん対局会場へ。主催スタッフによってあらかじめ決められた席につくと、やはり碁盤を前にすると気持ちが切り替わるのでしょうか、また少し緊張した雰囲気になりました。

 ボランティア参加の棋士たちも、親善対局に加わります。一人ひとりがご紹介されていきました。皆さんのごあいさつをご紹介しましょう。

 大会審判のマイケル・レドモンド九段
「皆さんこんにちは。親善対局でこれから皆さんと碁を打つのですが、勝つ秘訣はないと思いますけど、いつもの一人で打つ碁とは違う碁になる、それを楽しんでいただければと思います」

 大会審判の吉田美香八段
 「こんばんは。またこの大会に参加できて非常にうれしく思っております。世の中はだんだんせちがらくなってきているような気がするのですが、日本では昔から囲碁は世界を平和にすると仰る棋士が大勢いらっしゃいます。一人対一人で打つとどうしても勝負が先行しそうですが、ペア碁は、人が仲良くなれる、交流できる場で、世界に幸せを、平和を与えられそうな素晴らしい競技だと思います。どんどんペア碁が広まって楽しい世界になればいいなと思います。今回もまた大会を楽しんでください」

 羽根直樹碁聖
 「皆さまこんばんは。今回、世界中から、そして日本各地から集まっていただきまして、こうして華やかな大会が行われることをとても楽しみにしております。今日はこれから、たぶん初めて会う方とペア碁を打って一局を作りあげるわけですが、それでも相手の考えることが伝わるのがペア碁のよさかなと思っております。ステキな時間にしてください」

 石倉昇九段
 「皆さんこんばんは。囲碁というのは男女を問わず年齢を問わず誰でも楽しめるゲームです。そして女性の方が昔から碁を打っているのですね。日本では千年前、『源氏物語』という物語があるのですが、その中で、平安時代の女性の貴族の人たちがたくさん碁を打っていたことが書かれています。また、碁は相手にも与えるという平和のゲームですね。碁を打つ人が世界中に広まってくると、世界がますます平和になってくると思います。今日は皆さん勝っても負けても楽しく、そして、ペアの方とも碁を通じて仲良くなっていただきたいと思います。これからの対局、楽しんでください」

 今村俊也九段
 「皆さんこんばんは。毎年この時期になると日本では、『流行語大賞』というものが選ばれます。今年の受賞は『ワンチーム』でした。チームプレイの大切さと世界は一つということが、選考された理由だったそうです。日本代表のチームの指導者の言葉で、ラグビーは、試合をしている間はワンチーム、試合が終わればノーサイドということで、勝者も敗者もない。…これはペア碁の魅力にもつながる、非常に共通していると思います。今日から二日間、試合をしているときはワンチーム、終わってからはノーサイドということで楽しみましょう」

 山田規三生九段
 「皆さんこんばんは。私は今年、韓国で行われたペア戦大会に出させていただいて、そのときに辻華初段と組ませていただきました。辻華さんはプロ1年目らしくて、僕は30年やっているので、なかなか普段は接することがないのですけれども、何局か対局しているうちに、僕自身はとても仲良くなれたと思っております。ペア碁は棋力、年齢関係なくペアを組めて大変素晴らしい競技だと思っております。今日も明日も、皆さんぜひ仲良くいい内容の碁を打てるようにがんばってください」

 榊原史子六段
 「皆さんこんばんは。このペア碁の大会が第30回ということで、滝さんご夫妻が考案されて広めて、こんなにたくさんの世界の方々に打たれることになって、私も本当に感慨深く思います。私が楽しみにしている一つが、皆さんの民族衣裳です。たいへんお美しくて、この姿を見ることができうれしく思います。今、世界ではいろいろな紛争などが起こって、いい関係ではないところも多いのですが、皆さんの姿を見ると、囲碁を通して世界の平和が実現できるのではないかなと、いつもこの大会にきて実感しています。今日はたくさんの国の方々がお集まりなので、対局されるペアやお相手だけではなく、対局が終わりましたら、皆さん、できるだけ多くの国の方々とお話してくださって、ペア碁の楽しさ、また国際交流が進むことを願っております。この二日間、皆さまと楽しい素晴らしい時間を共有できることを楽しみにしています。私にもお声をかけてくださればうれしいです。いい時間をすごしましょう」

 もう一方、韓国からお越しのプロ棋士で韓国棋院事務総長の金榮三九段も紹介され、プロ棋士の皆さんも全員が対局の席に着きました。

 司会の猪井操子さんから、「持ち時間の設定はせず、18時15分ころまで、時間の許す限り楽しんでください。早く対局が終わりましたら、パートナーを入れ替えるなどしてもう一局打ってもかまいません。棋力のポイント差が大きい場合は2子まで置石を置いてもよいこととしますが、なるべく互先で対局してください。通訳が必要なときは、手をあげてお知らせください。では、まず、自己紹介をしてから、対局をはじめてください」とのアナウンス。そのとおり、各テーブルで自己紹介がはじまるや、会場はたちまち和やかな空気になり、その温かい雰囲気のなか、親善対局が始まりました。

 対局会場には、「公式ハンデ戦」出場のベルギーのマリー ジェミーヌさんのご主人が、お人形のように可愛い1歳のダニエル君を抱っこしながら応援する姿もありました。ご主人のお話によると「僕が彼女に囲碁を教えたのに、彼女のほうが強くなってしまったんだ」とのこと。そして「彼女は仕事で中国に行くんだけど、そこで囲碁の勉強もしてくるみたいなんだよ。ずるいと思う」と笑っていました。1歳のダニエル君にも、将来絶対に囲碁を教えるそうです。

 さて、親善対局とはいえ、やはり、皆さん碁盤に向かえば真剣勝負。集中していくのがわかります。そして、表情が生き生きとして、パートナーの打つ手に驚いたり感心したり頷いたり……羽根碁聖が話されていたように、一手打つごとに、パートナーとの距離が少しずつ縮まっていくようでした。

 プロ棋士の先生方が加わった対局をのぞいてみると……
 「すごく面白かった。相手の男性(学生ペア碁出場の韓国選手、宋在桓さん)がとても強くて、女性同士も同じくらいの棋力だから、いい勝負でね。二転、三転するんだけど、ずっと半目勝負だったんだよ」と話してくださったのは、石倉昇九段です。パートナーの、本戦ルーマニア代表ラウラ・アウグスティナ アヴラムさんが「難しい局面になると手を渡してきて(※次の手番の相手が必ず受ける別の場所に打って、難しい場所は自分のパートナーが打つようにする、ペア碁ならではのテクニックです)、よく練習しているんだなあと思ったしね」と、感心しきりでした。

 中国棋院院長で世界ペア碁協会理事でもある朱国平さんとペアを組んだ吉田美香八段は「パートナーが頼りになりすぎました!」と笑顔。快勝されたようです。
 羽根直樹碁聖のパートナーは、昨年は学生ペア碁に出場し、今年は本戦に出場しているニュージーランド代表のエマ レイノルズさんでした。局後に羽根碁聖が「検討しましょうか?」と尋ねると「もちろん!」。その後、途中から、一手ずつ「この手はOK?」と尋ねるエマさんに、羽根碁聖が「大丈夫。自信をもってください」と伝えると、「違うんです。打った手を覚えてないの」。そこで皆で笑い合う、というワンシーンもありました。

 パートナーを変えて二局目を打ち始めるテーブルもあり、通訳スタッフを呼んで熱心に検討を続けるテーブルも多くあり、ほとんどのテーブルでは4人の記念写真を撮り合い、メールアドレスを交換し合う選手たちもいて……楽しい時間はまたたく間に過ぎていきました。

 少し時間を押して、19時ころから前夜祭が始まりました。選手の皆さんは民族衣裳のまま参加です。会場は色鮮やかな、誰もが笑顔でいっぱいの、おそらく、ここでしか見られない光景となりました。
 そして、この夜には、いくつかの大きな報告とサプライズがありました。

 まず、松浦晃一郎世界ペア碁協会会長が登壇され、英語と日本語でごあいさつされました。
 「ペア碁は、1990年に滝久雄氏が草案されて、基本的なルールをつくられ、それが国内及び海外普及の基盤となりました。しかし私がここで申し上げたいのは、実際に国内普及、海外普及を一番一生懸命にやられたのは、奥様の滝裕子さんでございます。その成果に対して、文化庁長官賞を受賞されました。おかげさまでペア碁は、松田昌士大会会長・日本ペア碁協会理事長が滝ご夫妻を支えて、このように国内的にも国際的にも広まりました。改めて、会長に、私からもお礼申し上げたいと思います。そして、日本棋院、関西棋院、韓国棋院、中国棋院、この三カ国の棋院の方々がペア碁を推薦しご尽力してくださったことにもお礼申し上げます。引き続きお願いいたします。ありがとうございました」

 続いて、小林覚日本棋院理事長が登壇されました。
 「30周年、本当におめでとうございます。これはもう何よりも、滝ご夫妻の力でここまできたと思っております。初めてお話を伺ったときは、無責任に『これはいいですね』と言ったのですが、ここまで世界に広まるまでには、大変なご努力とご苦労があったと思います。本当に感謝しています。ペア碁は30周年を迎えても少しも色褪せていないと思います。常に新しいパートナー、新しい選手が入れ替わり参加しております。ペア碁がスタートした当初から、滝ご夫妻は30歳、年を取りましたが、お二方も決して色褪せておりません。この先長く長くペア碁が続きますように、日本棋院としても協力していきたいと思っております。本当におめでとうございます」

 続いて、正岡徹関西棋院理事長は、日本語と英語でごあいさつされました。
 「子供が碁を覚えると、賢く礼儀正しくなりますし、大人が碁を覚えると、友だちが増えます。さらに年配者が碁を覚えましてもよいことづくめです。そしてペア碁は、一人で打つより、コミュニケーションの幅が広がる競技だと思います。ペア碁の普及にご尽力いただきました滝ご夫妻に、改めまして感謝いたします」

 ここで、ペア碁創案者の滝久雄氏が、先に行われた日本ペア碁協会理事会で名誉会長に選出されたことのご報告がありました。そして、滝名誉会長・評議員と、30年前のペア碁草案当時から国内外のペア碁普及に尽力されてきた滝裕子筆頭副理事長に、日本棋院と関西棋院から感謝状が贈呈されました。

 日本棋院の小林理事長から「永年にわたり、ペア碁を通じてより多くの人々に囲碁を楽しむ機会を提供し、初心者から女性ファンを広め、囲碁の発展に大きく貢献してくださいました。功績を称え、感謝の意を表します」という感謝状が手渡されたのち、もう一つご報告がありました。
 小林「このたび、全日本囲碁連合という一般社団法人を、日本ペア碁協会、関西棋院、日本棋院で設立いたしました。中心になっていただきたく、滝裕子さんに会長をお願いしました。囲碁とペア碁を世界にもっと広めることをがんばっていきたいと思っております。滝さん、よろしくお願いいたします」

 そして、はじめに松浦氏からもお話があったように、滝裕子筆頭副理事長に、文化庁長官表彰を受賞したことが改めて紹介されました。
 文化庁長官表彰は、「永年にわたり文化活動に優れた成果を示し、我が国の文化の振興に貢献された方々、又は、日本文化の海外発信、国際文化交流に貢献された方々に対し、その功績をたたえるため、有識者による選考会議において選考を行い、文化庁長官が決定」されるもので、令和元年度には74名の方が表彰されています。滝裕子筆頭副理事長は「永年にわたり、ペア碁団体の要職を務め、ペア碁の普及を通じた囲碁文化の国際的な普及と文化交流に尽力するなど、我が国の文化芸術の振興に多大な貢献をしている」ことが受賞理由です。

 会場の大きな拍手のなか、日本棋院から花束が、関西棋院からは記念品が滝裕子筆頭副理事長に贈呈されました。それぞれ、羽根直樹碁聖、常務理事の榊原史子六段が手渡され、会場はさらに温かい拍手に包まれました。

 続いてサプライズです。滝裕子筆頭副理事長に、日本棋院、関西棋院より五段の免状が進呈されました。日本棋院からは小林光一名誉棋聖・名誉名人・名誉碁聖が、関西棋院からは今村俊也九段が免状を読み上げる間、滝裕子筆頭副理事長は驚きと喜びを隠せないご様子でした。

 続いて、滝ご夫妻が、あいさつに立たれました。

 滝久雄名誉会長・評議員
 「こんな形でペア碁が育って、本当に感無量です。僕は元々大の囲碁好きで、家庭でも職場でも顰蹙を買っていたわけですが、囲碁好きのお返しといいますか、碁がペア碁と一緒になって、たぶん世界で最も楽しい、永久に残るゲームだと思っている本人なのですが、ペア碁が育ったおかげで、30年で75カ国・地域ですので、この広がりは本物だと思うのですね。このペア碁を通して、世界の人々がコミュニケーションするのはとてもいいことだと思います。グローバル社会で平和が全てだと思う。この30年で一番育った産業は観光ですよね。観光は平和産業ですから。これが50兆、100兆の産業になったわけで、そういう意味では、ペア碁は平和にも貢献できるのかなと、そんな思いです。

 あと二つお話させてください。
 一つはハンデ戦についてです。囲碁は力が違ってもハンデをつけることで対等に争える唯一無二のゲームだと思うんです。今年初めてそのハンデを公式にすることができ、初めての大会もトライアルに行われました。そして来年のオリンピックイヤーには、50カ国近い国の人をお呼びして、ハンデ戦メインの大会を実現したいと思っています。
 もう一つは、オリンピックのゲームの実現です。今回、ペア碁協会と日本棋院と関西棋院、三者の連合ということになりましたが、二年後は中国で冬のオリンピックが開催されます。ブリッジがIOCで認められたのは、鄧小平さんのときでした。そういう意味では、2年後には、中国がとってくれると期待しています。お願いします。そして、フランスの夏のオリンピックではぜひ正式競技にしてください。お願いいたします。ペア碁は、また、JR東日本様の後ろ盾、その他、ここにいらっしゃる全ての方の応援で育ったと思います。今後ともよろしくお願いいたします。
 一つ言い忘れていました。奥さん孝行がやっとできたかなと思っております」

 滝裕子筆頭副理事長
 「本当に夢のような気持ちというのはこういうことでしょうか。つねりたくなりますけれども。まず最初に、五段をいただくというのは、私には考えられないことでございます。でも、五段というのは、松田会長、コシノジュンコ先生、それから小山薫堂先生、理事の皆さん、各国の皆さん、そして、私たちのスタッフ、みんな支えてくださいました、そのご褒美と思っております。30年ずっと続けて普及をしてまいりましたけれども、碁という力は素晴らしいものだということをつくづく思います。はじめの10年くらいは、とにかくペア碁を普及して、女性にもう少し参加していただこうという気持ちでやっておりましたが、10年くらい経ってから、それは私の喜びになりました。すべての皆さんは碁を打ちながら楽しくてそれが喜びだと思います。私の場合は、碁を打って楽しんでくださる皆さんを、お迎えしたり、私が訪れて、その光景を見るのがなんと嬉しいか。私の最高の幸せな時間が、そのときからできました。ですから、私が囲碁、ペア碁に対して感謝を申しあげなければいけない、という気持ちでおります」

 お二人がご降壇されたのち、来賓者がご紹介されました。
まずは、海外からお越しの役員の皆様です。以下敬称を略させていただきお名前をご紹介します。
朱国平 中国棋院院長・世界ペア碁協会理事
王誼 中国囲棋協会副主席兼秘書長
金榮三 韓国棋院事務総長・世界ペア碁協会理事
マーティン・スティアッシニー ヨーロッパ囲碁連盟会長・世界ペア碁協会理事
エドゥアルド・ロペス イベロアメリカ囲碁連盟相談役・世界ペア碁協会理事
アンディ・オークン アメリカ囲碁協会会長
ヴァンタニー・ナマソンティ タイ囲碁協会副会長
楊 寶甘 海峰棋院秘書長
マクシム・ヴァワシェウスキ ポーランド囲碁協会会長
ジェームス・ゼグウィック カナダ囲碁協会会長 
マダカスカルから三名、代表してリディ ジャニス ランドリアナリベロ マダカスカル囲碁協会会長

 続いて国内のご来賓です。
コシノジュンコ ベストドレッサー賞審査委員長
皆さんご存じでしょう、世界的にご活躍されているデザイナーです。
合原一幸 東京大学生産技術研究所教授
著書『人工知能はこうして創られる』の中で、人間と人工知能とのペア碁について取りあげられていらっしゃいます。
ベルナール・デルマス ミシュラングループ シニアアドバイザー・日本ペア碁協会理事

 そして、ご来賓を代表して朱国平 中国棋院院長が、乾杯のご発声のため登壇されました。
 朱「尊敬する囲碁界の皆様、こんばんは。ご成功を心よりお祝い申し上げます。ペア碁は、滝ご夫妻の力をいただいて、世界への影響がますます大きくなりました。ペア碁の可能性は、世界の囲碁ファンに期待されています。これから力をあわせ、ますます交流を深めていきたいと思います。オリンピックの正式競技になるよう、がんばります」
 ここで会場からはひときわ大きな拍手が起こり、「お願い」のかけ声もかかりました。
 朱「最後になりますが、囲碁界の大先輩の皆様、囲碁ファンの皆様、囲碁界が発展するように、心よりお祈りいたします。グラスを手にお取りください。囲碁の発展をお祈りして、乾杯!」

 会場に集まった選手の皆さん、関係者の方々がそれぞれお国の言葉で、「乾杯!」と唱和して、拍手が広まり、それから食事をとりながらの歓談タイムとなりました。

 日本の和服姿の女性選手がずらりと並び、その中央に立って記念撮影をしていたのは、「学生ペア碁」シンガポール代表のアルドリッチ チュア ホン ブーンさんでした。パートナーのアシュリー ゴウ シー イェンさんは「ビューティフル!」と手を叩いて大喜びでした。アルドチッチ君は、和服がとても綺麗なのでぜひこの一枚を撮らせてほしいとせがんだようです。たまたま近くにいたのでシャッターを押すことになった本戦出場のベトナム代表のチャン クアン ツエさんも「次は僕も!」とアシュリーさんと交代して満面の笑みで写真に収まっていました。
 他にもあちらこちらで数えきれないほどの記念写真が撮られ、会話がはずみ、近くの人にも小声だと届かないほどの賑わいとなりました。
 その後も驚きの企画が続きました。
 いつの間にか、ステージの上には、20人ほどの選手たちと関係者が並び、マイクを手にしていました。そして、彼らによって、放送作家の小山薫堂氏作詞・プロデュースのペア碁の歌「Pair Go,My Dream」の英語版が披露されました。皆さん歌詞カードを手にしながらですが、次第に皆の呼吸が合って素晴らしい歌声に。特に、サビの箇所は力と笑顔のこもった声になっていました。それぞれの民族衣裳を着たいくつもの国の選手が同じ歌を笑顔で歌っているシーンなど、なかなかありません。コシノジュンコさんもステージ近くに歩まれて何枚も写真を撮られていました。

 また、滝夫妻が再びステージに招かれると、次々と海外のご来賓の方からの記念品が贈られました。

 マーティン・スティアッシニー ヨーロッパ囲碁連盟会長からは…
 「皆さんこんばんは。ヨーロッパを代表してごあいさつ申し上げたいと思います。中国のように大勢囲碁を打つ人はいませんが、ヨーロッパからは、今年も32人の選手がきているのが自慢です。これまでに百人を超える選手が日本に紹介されました。とてもうれしいことです。滝夫妻のおかげでこんな素晴らしい会に参加できて感謝しています。また、トーナメントを面白いものにしたり、さまざまな企画を考えたり、準備に何か月もかかっていると思います。感謝を申し上げたいと思います。『深く感謝します』という文言から始まる言葉が刻まれた盾を贈りたいと思います」

 アンディー・オークン アメリカ囲碁協会会長からは…
 「まず、感謝の思いを申し上げたいです。個人的なお話をしますと、私は17年前からペア碁をはじめました。その17年の間にいつもペア碁のことを考えてきました。こんな楽しい経験はありません。一番感じるのは、滝ご夫妻の絶え間ない、たくさんの人に普及するための大変なご苦労のことです。でも、お二人のやられたことは大成功だと思います。滝ご夫妻の活動によって、また、支援をいただいて、私たちはたくさんの活動をしています。25周年のときに滝氏からいただいた贈り物にも大変な刺激を受けました。私たちはみな、社会に何かを返したいという気持ち、貢献する気持ちがあります。人からもらうより人に与えるほうが、恩恵を得られるという思いは、多くの人が共有しているのではないでしょうか。アメリカの囲碁ファンを代表して贈り物……アメリカに古くから伝わる模様が織り込まれた敷物をお二人それぞれに贈りたいと思います」

 ヴァンタニー・ナマソンティ タイ囲碁協会副会長からは…
 「タイの囲碁ファンを代表して、滝ご夫妻に贈り物を差し上げたいと思います。この30周年というおめでたい記念に私たちの感謝を表したいです。そして私たちは、次の記念も楽しみにしています」

 それぞれ、交流の深い各氏からの思わぬ贈り物に、滝夫妻も幸せそうなご様子でした。

 お忙しい合間をぬって、朝日健太郎参議院議員もお祝いにかけつけられ、スペシャルゲストとしてご紹介されました。朝日氏は、ビーチバレーの選手としてオリンピックに参加されたご経験があります。
 「かけつけるのが遅くなりまして、誠に申し訳ございませんでした。本日は30周年、心よりお喜びいたします。私もこのペア碁をいつかオリンピックの正式種目にしたいと願う一人であります。来年開催しますオリンピック・パラリンピックまでいよいよ220日となってきました。しっかり準備して世界中からアスリートを迎えたいと思います。選手の皆さんには、明日もすばらしいパフォーマンスを出していただけることを祈念申し上げ、ごあいさつとさせていただきます。がんばってください」

 そして、今回の選手の皆さんが一人ひとりお名前を呼ばれて紹介され、ステージに大集合しました。関係各位の皆様と一緒に30年続いてきた、恒例の華やかな記念写真が撮影され、大会一日目が終了しました。

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