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大会アルバム<観戦レポート 1>

 日本、中国、韓国、中華台北のトップ棋士が集うペア碁の祭典「世界ペア碁最強位戦2019」が8月19、20日の両日、東京・渋谷のセルリアンタワー東急ホテルで開かれ、世界ペア碁最強位のタイトルを保持する崔精九段・朴廷桓九段ペア(韓国)が、本戦トーナメントを勝ち抜いてきた呉侑珍六段・申眞諝九段ペア(韓国)を下して2連覇を飾った。

 また、開幕前日の18日には併催イベントとして「ペア碁俊英ドリームマッチ」が初めて開かれ、仲邑菫初段と福岡航太朗初段の新初段ペアが中国ペアと大熱戦を繰り広げた。

「ペア碁俊英ドリームマッチ」 8月18日(日)

 18日午後、世界で華々しい活躍をする棋士たちが続々と姿を見せ、碁盤の置かれた細長いテーブルを囲むように次々と座った。朴廷桓九段、申眞諝九段、井山裕太九段、一力遼八段……。例年と比べ、皆、リラックスしているようだ。それもそのはず。昨年までは「“パンダ先生”チャレンジマッチ」というイベントに出場して、囲碁AI「死活の神様 パンダ先生」や、ほかのペアたちと詰碁を解く速さと正確さを競わなければならなかったのだから。ここは「ペア碁俊英ドリームマッチ」の大盤解説会場である。

 対局者は、日本ペアが仲邑菫初段(10歳)と福岡航太朗初段(13歳)、中国ペアが呉依銘初段(12歳)と胡子豪初段(12歳)。仲邑と福岡はともに今年4月の入段。日本碁界の史上最年少記録10歳0カ月で入段した仲邑は、各種のイベントに引っ張りだこで、本企画の開催にも“菫フィーバー”が影響していたであろう。

 対局前の決意表明で、呉と胡はともに「日本のペアと対局できることは光栄。ベストを尽くしたい」と話した。仲邑は「頑張ります」、福岡は「中国の若手棋士のペアに競り負けないよう頑張りたいと思います。よろしくお願いします」と語り、4人は別室の対局会場へ移動。そして、豪華な検討陣が見守るなか、日中の若手ペアによる対決が始まった。対局ルールは「世界ペア碁最強位戦」と同じく、初手から1手30秒(途中1分単位で計10回の考慮時間)の早碁。

 パンダネットによる棋譜ライブ中継のほか、関係者を対象にした大盤解説会が開かれた。この関係者というのがクセ者で、報道陣を除くと大多数が棋士。解説の金秀俊九段が「やりにくい」、聞き手の謝依旻六段が「緊張しています」と笑ってから解説会が始まった。

図1

 日本ペアの先番。図1、黒11はAI流。かつては黒Aとツケるしか考えられないようなところだった。白12と黒13が珍しいらしく、17までの目新しいワカレになる。しかし、そこは世界屈指の検討陣である。一力八段が「見たことはあります」、井山九段も「私も棋譜だけは」の言葉に、日本棋院理事長の小林覚九段は「えっ、(見たこと)あるのっ!」と目を丸くした。「白はシメツケがあるので、厚みで打とうという方針です」と金九段。

 謝六段から「呉さんは中国の女子甲級リーグに出場しています。かなり強い」と情報が入る。胡については、ネット解説を担当した大西竜平四段が知っていた。「ネット碁で打ったことがあるのですが強かったです。負けました。芝野虎丸八段と六浦雄太七段も1局はやられています」だそうである。左上に続いて、右下もAIの影響を受けた折衝となった。

図2

右上の折衝から大激戦となる。図2、黒59のコスミは相手の形を崩そうという意図か。白は薄くとも60とオサえて頑張った。続く黒61のコスミツケは仲邑の一手。局後に金九段が「すべてはここから始まった」と振り返るように激闘へと突き進む決断の一着となった。白62と反発。黒63で白を分断したが、白64、66で黒もバラバラである。

ここで登壇した朴廷桓九段が「黒61がちょっと無理で、白が打ちやすいように思う」と判断。さらに福岡の打った強気な黒67のアテを見て、「自分なら黒68からアテて、捨てて打っているかもしれない、黒67はちょっと無理なのでは」と話す。日本ペアが強引に戦いに引きずり込んだ格好である。

その朴が「無理気味に見えたけど、けっこう難しい」と評価を変えた。
 黒73が打てて流れは一変。右上の白に眼形がなく、白76と置いて上辺の黒を狙っても黒には81のハネ出しがある。流れが変わった原因を一力遼八段が明快に解説した。「白は70のケイマで89とマゲて、黒71に白73と置くか、白72のサガリで73と置くべきでした。いまは黒がいけそうに思います」

図3

 図3、白90に対して、常識的には黒92とツグところ。福岡はもっと過激なことを考えて黒91と左上隅を優先。欲張った打ち方で「頑張り過ぎだった」と反省することになる。白92と出られてかなりきわどい攻防となった。

 黒113、117から大コウ。黒131まで、コウは黒が勝って上辺で大得したが、白も中央の五子を制しながら右上を生きた。白140と右辺を確定地にしてあたりでは白がリードを奪っているようだ。

図4
277手完、呉・胡ペアの白番4目半勝ち。

 日本ペアが必死の追い込みを見せる。図4、黒177はいかにも薄い封鎖で、Aの断点も気になるが、中国ペアは厳しい追及はせず手堅い逃げ切りに徹した。黒179は先手。黒189と中央の地を囲ってかなり細かい形勢。すでに黒が逆転していたかもしれない。黒199のアテでBと備えていればむしろ黒が有望だったか。しかし白200の踏み込みを許して、中国ペアの勝利となった。

 福岡は「最後、ヨセで見落としがあったのがすごく残念」と振り返った。仲邑に言葉はなく、謝六段の「勝てそうでしたね」との問いかけに、うん、と頷いた。本局は単なるエキシビションマッチではなく、勝者ペアは、来年開催される「ペア碁ワールドカップ2020 JAPAN」への出場権を得ることになっていた。20局くらい練習を重ねてきたという仲邑・福岡ペアは惜しくも勝利を逃した。

本戦、組み合わせ抽選 8月18日(日)

 ドリームマッチに引き続いて、本戦トーナメントの組み合わせ抽選がおこなわれた。世界ペア碁最強位戦2019には9ペアが出場しており、世界ペア碁最強位保持ペアのタイトルを保持する崔精九段・朴廷桓九段(韓国)以外の8ペアが本戦に出場して、崔・朴ペアへの挑戦権を争う形式である。日本代表は3ペア、中国代表と中華台北代表は各2ペア、韓国代表は1ペア。同国・地域の代表同士が1回戦で当たらないように配慮しながら抽選が行われ、組み合わせは以下のように決まった。

藤沢里菜四段・一力遼八段ペア(日本)― 於之瑩六段・芈昱廷九段ペア(中国)
 

 2、3月に東京の日本棋院で行われたプロ棋士ペア碁選手権2019を制した藤沢里菜四段・一力遼八段ペアは、於之瑩六段・芈昱廷九段(中国)と当たることになった。いきなり優勝候補との対戦である。上野愛咲美二段・井山裕太九段ペアは黒嘉嘉七段・陳詩淵九段ペア(中華台北)と、向井千瑛五段・山下敬吾九段ペアは張璇八段・常昊九段ペア(中国)との対戦が決まった。

 日本代表の6人に、対戦相手の印象や意気込みを聞いた。

 まず藤沢・一力ペアからは頼もしい言葉が返ってきた。
 藤沢「於・芈ペアとは当たりたくなかったんですけど、当たってしまった。これまで一力さんとは何度も組ませていただいている。相手は本当に強いペアですが、私がベストを尽くせばいい勝負ができると思うので、精いっぱい頑張りたい」
 一力「ペア碁だったら息をあわせれば十分チャンスがある」

 上野・井山ペアはユーモアを交えながら。
 上野「黒・陳ペアには、パートナー(井山のこと)は違うんですけど、数年前に半目負けしたことがある。そのときのリベンジを果たしたい。井山さんが新婚さんなので、たぶん頑張れると思います」
 井山「(美人棋士と評判の)黒さんのペアと打つときは、とにかく盤上に集中すること。目の前は見ない。まずはそこにかかっている」

 向井・山下ペアは、常との対戦に特別な思いを抱いた。
 向井「私の修業時代に、世界戦で常昊先生の対局の記録係をさせてもらったこともある。とっても尊敬している先生。自分自身も楽しんで、見ている方にも楽しんでもらえるような対局がしたい」
 山下「常昊さん、懐かしいですね。久しぶりに打てるので楽しみです」
 常は山下より2歳年上の42歳。かつて世界の囲碁界を牽引した大棋士である。

主催

日本ペア碁協会 / 世界ペア碁協会 / 世界ペア碁最強位戦 2019 大会実行委員会

共催

日本棋院

特別協賛

ぐるなび / 東急グループ / 三井住友銀行 / SMBC日興証券

協賛

伊藤園 / パンダネット / トピー実業 / ANA / 山崎製パン / パソナグループ / ビックカメラ / 大興電子通信 / QTnet / パーソルホールディングス / チョーヤ梅酒 / 三菱鉛筆 / 富士フイルムイメージングシステムズ / フジサワ・コーポレーション / アドグラフィックス / NKB / NKB Y's / 日本交通文化協会

特別協力

東京急行電鉄

世界ペア碁最強位戦は、beyond2020プログラム認証事業です。
「 beyond2020 」とは2020年以降を見据え、日本の強みである地域性豊かで多様性に富んだ文化を活かし、成熟社会にふさわしい次世代に誇れるレガシーの創出に資する文化プログラムです。
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