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第25回国際アマチュア・ペア碁選手権大会

大会観戦レポート

「ペア碁」がスタートして、25年目を迎える。囲碁界の最も華やかな大会として定着した「国際アマチュア・ペア碁選手権大会」は、今年は10月25日(土)、26日(日)の両日、ホテルメトロポリタンエドモンドにて開催された。恒例の荒木杯ハンデ戦も同時開催された他、25周年という節目を記念して、さまざまな特別企画も盛り込まれた。充実の二日間をお伝えしていこう。

大会一日目・開会式

 会場には、ペア碁の25年の歴史を紹介するパネルが設置された。1990年のスタート。1994年には当時アマチュアだった吉原(梅沢)由香里六段・坂井秀至八段の黄金ペアが優勝。また、プロ棋士ペア囲碁選手権もスタートしたこと。2007年には「ペア囲碁協会」から「ペア碁協会」へ。さらに「世界ペア碁協会」が設立されて、第1回ワールドマインドスポーツゲームズ」の公式種目に認定されたこと。などなど、懐かしい写真の数々と共に、「ペア碁」が、25年の歩みの中で、世界中に広まっていったことがわかる。

 さて、会場は朝から独特の雰囲気に包まれた。世界中から集まった応援団が興奮しながら早くも記念撮影を始め、対照的に早くから着席して静かに気合を高める選手たちもいれば、対戦ペアと4人で和やかに会話をはずませる選手たちもいる。

滝裕子 日本ペア碁協会常務理事
滝裕子(公財)日本ペア碁協会常務理事
 開会式では、実行委員の滝裕子があいさつに立った。「0からスタートしたペア碁が、25周年を迎えたことは感慨深く、スポンサーの皆さま、そして、ペア碁を愛してくださった皆様のおかげだと感謝しています。また、世界中のPGPP(Pair Go Promotion Partner:それぞれの地域でペア碁普及のために積極的に活動していただいている方たち)の皆さんが、ペア碁を応援し、70カ国・地域に普及してくださいました。25周年の節目は、ペア碁が皆さんのもっと近くになるために、これからの25年、50年の出発点にしたいと思っています。今日と明日の2日間は様々な企画を用意いたしました。でも、一番の主役は『ペア碁』です。真剣にそして楽しんでください。熱戦を期待しております」

 続いて、審判長の石田芳夫二十四世本因坊、審判のマイケル・レドモンド九段らの紹介。第一回から審判長をつとめられてきた小川誠子六段は、今年はご事情により欠席。吉田美香八段が代行された。毎年恒例のベストドレッサー賞の審査委員長として迎えられた、デザイナーのコシノ ジュンコさんも紹介された。
 レドモンド九段の競技説明に続いて、いよいよ開始コールだ。
 「Please begin!」

本戦

第25回国際アマチュア・ペア碁大会 会場の様子  海外20カ国・地域、国内8カ所で行われた地方大会により選出された、海外21組、国内11組の強豪たちによる本戦。ちなみに、国内11組は、予選に参加した113組の中からトーナメント戦で勝ち上がったペアだ。 一日目は一回戦が行われた。年々レベルが上がっており、最新の難しい定石が打たれる対局も見受けられた。
 イタリアのキアラ・ビスカロさん・ダヴィデ・ミニエリさんペアと対戦した岸本真恵さん・渡邊祐介さんペアは局後に「男性が強かった!」。危ないところは? の問いかけに「ありました、ありました!」。勝負所となった接近戦の場面を再現し、4人で一手一手確認しながら検討。お互いにカタコトの英語で十分に理解し合っていた。
 メキシコのリリアン・サヴァラさん・オマールサヴァラさんペアは、15歳と12歳の姉弟で今大会の最年少。ドイツのマニエル・マルツさん・ベンジャミン・トイバーさんペアに敗れ意気消沈。でも、局後の検討で、「穴アキ一間トビはよくない」と丁寧に教えてもらい、「うんうん」とうなずきながら笑顔になっていった。
 どの対局も、局後は和やかに讃え合っていた。握手を交わすペアや、キーホルダーや民芸品などの小さなプレゼントを交換する微笑ましい光景があちらこちらで見られた。

親善対局

 昼食の後は、恒例の親善対局。72組144人が一堂に会し、民族衣装を着て碁盤を囲んだ。ドイツチームは、お揃いのサッカーのユニフォームを新調し、頬に国旗をペイントして陽気に参戦。ここでしか見られない圧巻の光景が今年もかえってきた。
 また、大勢のプロ棋士も加わり、対局前に一言ずつペア碁に臨むアドバイスを披露した。
 一部を紹介すると……
 王立誠九段「力を合わせて楽しんでください。勝負はどうでもよいです(笑)」
 羽根直樹九段「打ちたい手を伸び伸び打って楽しみましょう」
 今村俊也九段「日本一強かったサムライの宮本武蔵は『一切後悔しない』という言葉を残しています。皆さんもミスをしても前向きにがんばりましょう」
 水間俊文七段「あ・うんの呼吸を合わせて、がんばってください」
 瀬戸大樹七段「今年4月に結婚した短い経験から……大切なのは女性を立てることです」
 原幸子四段「先日、主人の依田(紀基九段)とペアを組んだのですが、局後に一方的に怒られるとわかっている碁を打つのは初めてでした。でも同時に、こんなに頼もしいと思ったこともありませんでした。棋力が下の方は、足を引っ張るのは当然と思って伸び伸びと、上の方は暖かい心で思いやりをもっていただけると、ペアとしてもうまくいくと思います」
 大澤奈留美四段「上手の方は広い心を持ってパートナーを信じてあげ、心を一つにして楽しんでください」

親善対局  普段、民族衣装を着る機会もないのだろう、少し顔を赤らめながら対局に臨む選手たちも。テーブル毎に記念写真を撮り合う光景も多く見られた。 とはいえ、対局が始まると皆真剣そのもの。「プロ棋士の打つ手はやはり違う。勉強になりました」という声が聞かれる一方で、金秀英さん(韓国)・闇雲翼さんペアと対戦した青葉かおり四段は「プロと打っているのとほとんど変わらない強いペアでした。完敗でした」。親善対局のレベルもアップしているようだ。局後の検討も熱心に行われ、今年もまた素敵な交流のひとときが流れていた。

日中韓プロ棋士ペア碁特別記念対局

 さて、二十五周年を記念したイベントとして、贅沢な対局が企画された。日中韓のプロ棋士によるペア碁特別記念対局だ。組み合わせは、抽選の結果…… 謝依旻女流二冠・井山裕太六冠という夢のペアは、韓国の李夏辰三段・曺薫鉉九段ペアと対戦。小林泉美六段・張栩九段ペアは、中国の張璇八段・常昊九段との夫婦ペア決戦となった。

日中韓プロ棋士ペア碁特別記念対局の様子日中韓プロ棋士ペア碁特別記念対局の様子

 張璇八段・常昊九段夫妻は、「25周年おめでとうございます。参加できてとても嬉しい」と対局前に話され、張璇八段は「中国のペア碁の大会に参加したことがあり、何回か優勝もしています」と自信をのぞかせた。「どちらがイニシアチブをとるのですか?」の問いに、常九段は「ペア碁は自分の意見ではなく、パートナーの意図をよく理解することが一番大切です」と、やんわりかわした回答だった。
 対する小林泉美六段・張栩九段ペアは、「主人とペアを組むのは初めて。夢がかなって嬉しいです」(泉美六段)、「うまくサポートしていい碁が打てたらと思います」(張栩九段)と、こちらはイニシアチブが決まっているようだ。 韓国ペアの李夏辰三段は、ヨーロッパやアメリカの碁コングレスで機会がある度にペア碁を打っているとのこと。「でも今日はパートナーが強いので、ドキドキしています」とやや緊張気味。曺薫鉉九段は「ペア碁は世界中で盛んになっていて、私もときどき打っております」と日本語でごあいさつ。「今日はゆっくり楽しめればと思います」。
 日本ペアの井山裕太六冠は、前日にもタイトルマッチを打ったばかり。謝依旻女流二冠は、「井山さんはタイトル戦の最中。私のせいで調子が悪くなったらどうしよう、と、昨日から胃が痛くなっています」とやはり緊張モード。井山六冠は「もちろん真剣勝負ですけど、プロアマ問わず、楽しく打てる貴重な機会。謝さんとは前にもペアを組んだことがありますし、楽しく打ちたいと思っています」と余裕の表情だった。

 特別記念対局の開始と同時に、大盤解説もスタート。解説は石田芳夫24世本因坊。聞き手は吉田美香八段。隣室ではマイケル・レドモンド九段による英語解説。両室とも満員のファンが、夢のカードの推移を見守った。

 夫婦対決は、白番が日本ペア。 石田24世本因坊の解説をまとめると……序盤は白の石の流れがあまりよくなく、右上の打ち方がやや失敗。でも、黒1子を飲み込めたのが大きく挽回。長期戦の様相に入った。右下で白が妥協していれば、細かい形勢だったのだが、勢いコウに持ち込んではコウ材が足りなかった。投了はやむを得えず、残念。
 もう一局は、黒番が日本ペア。
 こちらは下辺の戦いで白が苦しくなった。だが、手所で相手に一手のミス。これを捉えて、鋭い手を放つと黒の筋に入った。鮮やかな逆転で、黒が勝利をおさめた。

前夜祭

コシノ ジュンコ ベストドレッサー審査委員長と滝久雄・滝裕子夫妻
コシノ ジュンコ ベストドレッサー審査委員長
コルサック チェイラスミサック タイ囲碁協会会長と滝 久雄 ペア碁25周年記念事業委員長・滝裕子常務理事
コルサック チェイラスミサック タイ囲碁協会会長と
滝 久雄 ペア碁25周年記念事業委員長

 一日目の夜は「Welcome Party」が催された。
 役員の紹介に続き……
 ペア碁の生みの親でもあり、25周年記念事業委員長をつとめる滝久雄、大会実行委員の滝裕子夫妻に、世界中からサプライズプレゼントが届いた。
 まず、デザイナーのコシノ ジュンコさんからペアの衣裳。「心を込めてつくりました」。
 続いて、タイ囲碁協会会長のコルサック・チェイラスミサックさんからは像の置物。「ペア碁のおかげで、たくさんの女性ファンが囲碁を楽しむようになりました。他のゲームでは、負けると恨みを持ちますが、囲碁は相手を尊敬するようになる。すると二人は仲良くなる。こんなゲームは他にありません」。
 ヨーロッパ囲碁協会会長のマーティン・スティアッシニーさんからはネックレスと特別ペア碁用盤石。「ペア碁のコミュニケーションはさらに深まり、高いレベルにも達しています。この25年で難しいプロセスを遂げ目標を見事に達成し、二人は完璧なペアだと思います。そして、普通はこれで満足しますが、これからの目標を目指している。驚くべきことです」。
 そして、「乾杯」には、民族衣装の選手たちが、高々と杯を掲げた。

 会場を埋め尽くす参加者・関係者・棋士たちの笑顔の交流の中、壇上ではさらにパフォーマンスが続いた。

小山薫堂さん
小山薫堂さん
作曲した平田輝さんが自ら辻村結實子さんと一緒に生歌を披露
作曲した平田輝さんが自ら
辻村結實子さんと一緒に生歌を披露
 映画『おくりびと』の脚本を手掛けたことでも有名な、放送作家、脚本家の小山薫堂さんが駆け付け、ペア碁の歌――小山さん作詞(平田輝さん作曲)のオリジナル新曲『Pair Go,My Dream』を、お仲間の辻村結實子さん、平田輝さんと共に披露。会場中に優しいメロディが響いた。

 続いて特別記念対局の日中韓の棋士たちが壇上へ。吉田美香八段がインタビュアーをつとめ、対局の感想を尋ねていった。
 常九段は「ペア碁は、結婚前の方がお互いに気を使ってうまくいくように思います。幸い今日は勝てましたので何事もないでしょう」と場内の笑いを誘った。
 これを受けて、小林泉美六段は「主人が対局中に怒っている、がっかりしている、がんばっている、というのは以心伝心ですぐにわかるのですが、石からのメッセージが読み取れず、残念でした。でも、主人は結婚して10年経ち忍耐強くなりました。今日の敗戦も全く問題ありません」と応え、張九段も「常さんには子供の頃からよく打っていただきました。こういう素晴らしい形で対局でき嬉しく思います。今日の結果は残念でしたが、一緒に負けることで絆が深まると思うようにしているので、もっと仲が良くなるんじゃないかな」と会場を沸かせた。
 曺九段は「25年前は、私ももう少し強かったのですが」と日本語であいさつ。「でもまだまだがんばります。5年後にもぜひ30周年記念対局をお願いします」。井山六冠は「謝さんとは久々にペアを組み、僕が打った手で苦しめてしまったと思うのですが、パートナーのおかげで勝つことができました。今日は、憧れの薫鉉さんの一手一手を間近で感じられました。このような機会をくださって感謝しています。僕も謝さんも25歳。ペア碁と共に、これからも成長していきたいと思います」とあいさつして、会場は拍手喝采だった。

 続いて、翌日開幕の第一回世界学生ペア碁選手権大会に出場する選手が壇上で紹介された。 韓国の曺銀雪さんは「こんなに貴重な時間をつくってくれてありがとうございます。これから30年、40年…と続くように願っています」 金灝雅さんは「世界中の人々と出会えて嬉しい。よい思い出をつくりたいです」 日本の癸生川聡さんは「パートナーの塚田花梨さんとは7歳のときからの幼馴染です。明日は仲よしペアの強さを世界に見せつけたいです」 それぞれに、感謝の言葉、明日への抱負を語っていった。

 そして、本戦出場のペアたちも次々に登壇して明日への意気込みを語り…… ご覧のとおり、圧巻の記念撮影にて一日目が締めくくられた。

記念撮影