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大会アルバム<観戦レポート 3>

本戦決勝戦 芮・陳ペア(黒)VS崔・朴ペア(白) 8月21日(火)

 
図1(1~60手)

 判で押したようなAI流布石から始まった。右下白24のツメは白26のスベリをにらんだ手で、いきなりコウをにらんだ難解な攻防に突入する。さらに黒41ツケからの攻防も見ごたえ十分だが、左下隅白50から52の切りが厳しい狙いで、白60まで下辺を割って、白がポイントを挙げる。

大盤解説会に於之瑩六段・柯潔九段ペアが駆け付けた

 こんな解説を聞いていたころだったろうか。大盤解説会場に、午後の最強位決定戦に出場する柯潔九段、於之瑩六段が突然、姿を見せ、観衆を驚かせる。実は聞き手を務めていた吉田美香八段が思いついて柯九段に直談判。「於六段が一緒なら……」と了承してくれたという。大事な対局の前に公衆の前に姿を見せること自体、異例のことだが、サービス精神旺盛な柯九段なら応じてくれると踏んだ吉田八段のファインプレーと言っていいだろう。解説会の壇上で両人は、普段、AIで勉強していることやAIに基づく布石の新しい考え方などについて披露。集まった観客は、短い時間ではあったが、世界のトップ棋士の考えに触れて、満足そうだった。

図2(60~103手)

 黒71のツケから黒73と割って右辺での攻防。白82のツケコシからの戦いは難解そのものだが、「黒103までの分かれは、白の厚み、右上隅の実利が、右辺の白数子を取り込んだ黒の実利を上回る」というのが解説者の一致した見方。朴自身も「右辺のフリカワリで勝ちになった」と話していた。

図3(103~154手)

 上辺の黒を助けるだけでは足りないと見た陳は黒131から勝負に出るが、中央白142のツケが厳しい1手。白154まで紛れがなくなり、地合いも大差で黒の投了となった。

 終局後、芮は「ペアで碁を打っていると女性の実力が少し劣るのが普通だが、崔さんは時間の使い方を含めて見劣りしない。今回、4人で打ってみて、自分だけ実力が劣り、悪手を打ってしまった。陳さんには申し訳ないことをしたが、こんな私と組んでここまで来れたのだから、陳さんは偉い」と語っていた。

崔・朴ペア VS 芮・陳ペア

 

本戦3位決定戦 加藤・井山ペア(黒)VS 藤沢・一力ペア(白) 8月21日(火)

 
図1(1~54手)

 双方「ここで当たりたくはなかった」という思いを抱きながらも、戦いが始まれば真剣勝負。黒23の肩ツキに白24と打ち込み、上辺で競り合いが始まった。黒37で一段落した後、井山の打った黒43ツケから面白い変化が出現した。黒が49まで隅に食い込み、白は50から52と中央の黒を切断するフリカワリとなったのだ。「少しやり過ぎたかもしれないが、白がまずまずの分かれ」と藤沢が言っていたのは、この辺りのことだろう。

 対局終了後、昼食休憩のときに、対局者4人に大会審判長を務めていた大竹英雄名誉碁聖や、石田芳夫二十四世本因坊らも交えてこの辺りの検討を熱心に行っていたのが印象的だった。

図2(54~100手)

 黒55の肩ツキから左辺での攻防。黒65の押さえに白66とノゾき(藤沢)、続いて白68と割り込んだ(一力)のが厳しい狙いで、この辺りは見事なコンビネーション。黒81までの3子をのみ込む格好となり、ここで白が打ちやすくなったようだ。最後は中央の黒を大きく取り込んで勝負を決めた。

 勝った一力は「3位という結果には悔しさも残るが、ペアとして練習した成果も出て、楽しかった」と語り、負けた井山は「世界のトップ棋士と打てたことで得るものも大きかった。これを今後の個人戦にも生かしていきたい」と締めくくった。

藤沢・一力ペア VS 加藤・井山ペア

 

世界ペア碁最強位決定戦 8月21日(火)

 
於之瑩六段・柯潔九段ペア VS 崔精九段・朴廷桓九段ペア

 最強位決定戦は午後2時半開始。中国の於之瑩六段・柯潔九段ペア、韓国の崔精九段・朴廷桓九段ペアという、個人戦で輝かしい戦歴を誇る世界の男女ツートップ4人が一つの碁盤を挟んで向き合った。ここに日本のペアが居ないのがやや寂しい感じはあるが、この顔ぶれを見てワクワクしない囲碁ファンはいないだろう。握って韓国ペアの先番。

図1(1~41手)

 右上、AI流の白8三々入りから始まった。白14のブツカリに黒15といったん緩めると、黒37まではほぼ必然の進行らしい。黒23のカタツギではaのカケツギの方が形が良さそうに見えるが、「AIは(aより)黒23の方を評価しているようです」と大盤解説会の井山。

 続いて於が白38と上辺に一撃し、黒39と換わったが、「損な交換だった」と局後の大盤解説会で柯。「この布石は自分でも勉強したが、パートナーとは不十分だった」と話した後、於に対して「もっと勉強してください」と言ったのはユーモアのつもりだったのかもしれないが、この碁が於にとってつらい結末に終わってしまった直後だっただけに、於が壇上で涙ぐみ、観客の同情を誘う一幕もあった。

 一方の崔が打った黒41は「黒bからの出切りが良かった」というのが韓国ペアの反省としてあったが、この点については朴の指摘を崔が素直に受け入れている様子で、中国ペアに比べて韓国ペアの息が合っていた状況は大盤解説会の様子からも窺い知ることができた。

図2(41~88手)

 黒55まで進み、中央の白が厚みとして働くのか、逆に負担になるかといった局面で、競り合いは右下から右辺に移る。柯の打った白68の三段バネがさすがの一手で、観客をうならせた。黒cの両アタリは白79とツいで白70を狙う読み筋だろう。

 結局、白が82まで地を稼ぎ、黒が83から85と押して手厚く打ち進める進行だが、この辺りでは「黒の厚みが白の実利をやや上回る」というのが、加藤・井山ペアの見解。白88まで進んだところで解説役を交代した藤沢・一力ペアも「中国ペアの息が合っていない感じがする。上辺が黒地になれば黒が打ちやすい」という見解で、この辺り、黒がペースを握っていたのは間違いないようだ。

図3(88~147手)

 白88の上辺動き出しが勝負手で、白100と押さえ、さらなる難解な攻防が続くが、黒107と左上隅を生きた時点でも白の薄みが目立つ展開。白128、130の出切りから必死の寄り付きだが、韓国ペアは計算ができていたようで、黒147と左上白を取り切って、黒のリードがはっきりする。

図4(147~183手)

 しかし、勝っている方が逃げ切ろうとして堅く打つのは致し方ないところで、韓国ペアが少しずつ緩む。右下黒171、173と決めたのはいささか堅すぎたようで、左下白174のサガリに回られて形勢がやや接近してきた。

 しかし、逆転ムードが出てきたところで事件が起きる。左上、於が「先手のつもりで打った」白182が大錯覚。手を抜かれ、左下黒183に連打されて突然の終局となった。黒181に183と受けるかdと受けるか迷った挙句、「柯に判断をゆだねようと手を渡したつもりだった」が、左上はダメ詰まりで先手にならない。於ほどの打ち手が間違うような難しい箇所ではなく、「パートナーである柯のプレッシャーが大きかったのでは」という見方も。於は表彰式直前まで時折涙を見せ、先輩棋士である華学明・中国棋院ナショナルチーム総責任者や芮廼偉九段に肩を抱かれて慰められる場面もあった。

 終局後、韓国ペアからは「白182で普通に受けられていたら負けだったかもしれない」という発言があり、微妙な形勢だったことをうかがわせたが、多少、リップサービスの部分もあったらしい。ネット解説を担当していた芝野虎丸七段によると、「白183と受けていても、黒の勝ちは動かない。手厚く打った韓国ペアの完勝譜」という。

局後検討する両ペア

 

表彰式 8月21日(火)

崔・朴ペアに、松田大会会長からトロフィーの贈呈

 表彰式では、"パンダ先生"チャレンジマッチの表彰に続き、世界ペア碁最強位決定戦の表彰が行われた。優勝した崔・朴ペアには松田昌士・大会会長からトロフィー、賞金目録などが贈られた。また、最強位決定戦で敗れた於・柯ペアや、本戦準優勝の芮・陳ペア、本戦3位の藤沢・一力ペアもそれぞれ表彰され、にこやかな表情に。於にも、いつもの笑顔がもどり、関係者をほっとさせた。

 表彰式の後のインタビューで、崔は「ペアを組んで3年目で初めて優勝できて、すごくうれしい。パートナーに配慮してもらって緊張せずに打てたのが幸いした」と勝因を語り、朴も「最強位決定戦では中国・柯潔九段の好きな布石を準備していて、その通りになった。他の対局でも準備した布石が必ず出てきたため、序盤から気楽に打てた。すばらしい大会で優勝できて、とてもうれしい」と喜びを語っていた。

 また準優勝の中国ペアからは反省の言葉ばかり。於は「(最後の場面を振り返って)先手と思い込んでいたが違っていた。もっと実力を上げて、この大会に戻ってきたい」と語り、柯は「自分は地に辛く打つのが好きで、(決定戦も)薄くなってしまったが、やはりペア碁は厚く打たないとダメ。次からは女性のことも考えて打ちたい」と話していた。


記念撮影

主催

日本ペア碁協会 / 世界ペア碁協会 / 世界ペア碁最強位戦 2018 大会実行委員会

共催

日本棋院

特別協賛

ぐるなび / 東急グループ / 三井住友銀行 / SMBC日興証券

協賛

伊藤園 / パンダネット / トピー実業 / ANA / NEC / 山崎製パン / 凸版印刷 / パーソルホールディングス / 富士フイルムイメージングシステムズ / フジサワ・コーポレーション / アドグラフィックス / 大興電子通信 / NKB / NKB Y's / 日本交通文化協会

特別協力

東京急行電鉄