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第27回国際アマチュア・ペア碁選手権大会

国際アマチュア・ペア碁選手権大会観戦レポート

 最も華やかで国際的なアマ大会、第27回国際アマチュア・ペア碁選手権大会が12月3日、4日に飯田橋ホテルメトロポリタンエドモントで開かれた。華やかで国際的 ― そこには単なる国際ペア碁大会ということ以上の様々な仕掛けがある。同時開催された第3回世界学生ペア碁選手権大会と荒木杯ハンデ戦の模様も合わせて本大会の全貌をお伝えしよう。

1日目

本戦開幕

 各国選手が続々と到着。日本が初めてという人もいれば、何度も来ているという常連選手もいる。中には本大会をはじめとした世界大会で顔見知りになっている選手も。「久しぶり!元気にしてた?」という会話がそこかしこで聞かれた。

 メイン大会である国際アマチュア・ペア碁選手権大会は5回戦のスイス方式のリーグ戦。海外ペア20組と国内予選を勝ち上がった日本ペア12組、計32組64人で行われた。
 第1回戦、主催国として気になるのは日本ペアがどこと対戦するかだ。優勝を狙いたい日本サイドには強豪国とは最後に当たりたいという心理が働く。大会10連覇中の韓国や中国、中華台北などの強豪国とどこが対戦するかに大きな注目が集まった。

 抽選により12組いる日本ペアのうち6組は日本ペア同士の対決、6組が海外ペアとの対戦となった。その中で、初戦に優勝ペアの最有力候補である韓国の金秀英(キム スヨン)さん、朴鐘昱(パク ジョンウク)さんペアと対戦することになったのが、関東・甲信越代表の大沢摩耶さん、土棟喜行さんペア。大沢さん、土棟さんともに国内の全国大会で優勝経験がある実力者だ。早々に主要対局が行われることになり、にわかに会場がざわついた。対局が始まると両ペアのテーブルには人だかりができ、みな固唾を飲んで見守った。

 結果は韓国ペアの12目半勝ち。やはり大会10連覇中の韓国ペアは強かった。しかし内容はかなり肉薄していたようだ。土棟さんは「チャンスはあった」と悔しそう。それでものちの成績によっては上位に食い込むことができる。大沢さんは「残念だったけど次の対局からまた頑張ります」と気持ちを切り替えていた。

 もう一つ、注目が集まったのはタイ代表のパットラポーン・アル―ンファイチトラさん、ヌッタクリット・タエチャムアビットさんペアと近畿代表の今村康子さん、江村棋弘さんペアの一戦だった。近年ヨーロッパや東南アジアが急成長してきており、もはやアマ碁界では日中韓台の4強という構図は崩れつつある。本局は序盤で日本ペアが優勢を築いたが後半にタイペアが逆転。日本の強豪ペアを相手に勝ち星を挙げた。「強い人に勝ててうれしい」とパットラポーンさんとヌッタクリットさん。二人は何度もペアを組んでいて気心知れた仲という。抜群のチームプレーにはそんな背景があったようだ。

親善対局

 本大会1回戦目が終わるとしばらく休憩がある。ここで各国選手はそれぞれの民族衣装に着替え、親善対局と夜の前夜祭に備えるのだ。

 民族衣装にはその国々の文化や歴史、気質が表れて面白い。例えば、オーストリア代表のヘルムート・ヴィルチェックさんは帽子にアルプス山脈をイメージしたデコレーションをして登場。エーデルワイスのブローチやアルプスカモシカの髭を飾っていた。ドイツ代表のマニア・マルツさん、ミヒャエル・マルツさんは世界的に有名なグリム童話から赤ずきんちゃんと赤ずきんちゃんを助けた猟師に扮した。「グリム兄弟はドイツ人だし、この赤ずきんちゃんの衣装のデザインはドイツの伝統的なスカートの形でもあるの」とマニアさん。他にも、国を代表するダンスの衣装や、お祭りの衣装など、それぞれに固有の由来や背景がある。色使いもデザインも実に様々で、見ているだけで気分が高揚した。

 親善対局には各国選手に加え、来賓の方や日本のボランティアの方、それに羽根直樹九段らプロ棋士が参加した。棋士がいれば級位者もいる、肌の色が違えば言葉も違う。まったくバックグラウンドが違う人達で即席のペアを組み対戦するのはなかなかスリリングで面白い。

 即席ペアといってもやはりそれぞれのカラーが出る。ヘルムートさんは左井瑛子さんとペアを組み、今村俊也九段とルーマニア代表のアンドレーア・エレナ・プルヴさんと対戦。終局後、大敗を喫したヘルムートさんは「ときどきいい手、ときどき切腹」と日本語で検討し笑いを誘った。実はヘルムートさん、もう亡くなってしまったが、奥様が日本人だったため日本語が少しできるのだと言う。

 アマチュアにとっては棋士と組むというのもドキドキする体験だ。ノルウェー代表のパニラ・エリザベス・ハヴァルビさんは山田規三生九段とペアになり「私は級位者だからすごく緊張したわ」と表情が硬かった。しかし一局打ち終わる間にすっかり打ち解けたようだ。最後は全員で記念撮影をしてとても楽しそうだった。

 和気あいあいと談笑するテーブルがあるかと思えば大会本戦かと見紛うばかりの真剣勝負を繰り広げているテーブルもある。学生大会の日本代表、大関稔さんは学生大会の中華台北代表、林曉彤さんとペアを組み、韓国の劉昌赫九段と日本棋院の元院生である榛沢彩香さんと対戦。劉九段という韓国のレジェンドを交え、超ハイレベルな戦いになった。「まさかこういう場でこんなすごい棋士の先生と対局できるとは思わなかったので、すごくラッキーでした」と大関さん。親善対局はそれぞれにとって特別な時間になったようだ。

前夜祭

 親善対局が終わると各国選手は民族衣装を着たまま前夜祭会場に移動する。みな自由に行き来しながら写真を撮ったり談笑したり。一つ所に色とりどりの民族衣装をまとった選手が集まると、急に世界が小さくなったような気がする。

 司会の関本なこさんとジョン・パワーさんが開会を宣言すると一気に厳粛な雰囲気が漂う。まずは松浦 晃一郎世界ペア碁協会会長が登壇し、海外からの選手に歓迎の挨拶を述べると温かい拍手が沸き起こった。

 続いて参議院自由民主党議員会長の橋本聖子参議院議員と朝日健太郎参議院議員が登壇。まずは橋本議員が「オリンピック・パラリンピックは、スポーツだけでなく、文化的な部分においても世界に発信していくイベント。2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、ペア碁及びマインドスポーツとのコラボレーションを目指し、素晴らしい文化の発展に寄与させていただきたい。」と挨拶し、続いて元ビーチバレー日本代表でもある朝日議員が「オリンピックの目的は人類の平和であり、テーマは友情、尊敬、努力。2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けてペア碁を盛り上げて、ペア碁がもっと発展するよう頑張っていきましょう。」と会場にいる選手に語りかけた。

 日本の伝統文化である津軽三味線も披露された。普段は1人で引くことの多い津軽三味線だが、ペア碁ということで特別に男女混合のユニットを組んでの演奏だった。曲目は「六段」と「津軽じょんがら節」。力強い三味線の音色にみな聞き入った。

 「Pair Go, My Dream」も前夜祭に花を添えた。本曲が誕生したのは2014年、作詞を放送作家の小山薫堂さん、作曲を平田輝さんが手がけ、ペア碁誕生25周年を記念して作られた。そのペア碁の歌の英語バージョンをドイツ代表のマニア・マルツさん、ミヒャエル・マルツさん夫妻が登壇し、熱唱。澄んだ歌声が響き、会場に一体感が生まれた。

 最後は代表選手の紹介と記念撮影。国際アマチュア・ペア碁選手権大会に出場する32組と世界学生ペア碁選手権大会に出場する16組、全員が登壇した。美しい民族衣装を着た選手がずらりと勢ぞろいすると迫力がある。「国際」という概念は抽象的で直接見たり触れたりすることはできない。しかし、このように様々な文化的背景を持った人々が一枚の写真に納まると実際に触れられたような気持ちになるから不思議だ。改めて画が持つ力を感じる瞬間だった。

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