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第27回国際アマチュア・ペア碁選手権大会

国際アマチュア・ペア碁選手権大会観戦レポート

2日目

本戦

 2日目になると世界学生ペア碁選手権大会と荒木杯ハンデ戦が加わり、さらに華やかになる。3大会の開催に先立って、滝裕子日本ペア碁協会常務理事が登壇し、1日目の朝日議員の挨拶を引用して次のように挨拶した。

 「ペア碁は強さだけではなく、パートナーの考えを読んで、理解し、生かす手を打つという思いやりがないと勝てないゲームです。混迷しているグローバル社会にはまさに「思いやり」というペア碁の精神が求められていると思います。昨日、朝日健太郎議員がおっしゃっていたオリンピックの3つのテーマである「友情・尊敬・努力」はペア碁に当てはめて考えてみると、尊敬が思いやり、勝とうとする気持ちが努力、そして対局の後に生まれるものが友情となるのではないでしょうか」

 続いて審判長を務める二十四世本因坊秀芳による競技説明があり、一斉に対局開始。

 本戦は、2回戦、3回戦と進むにつれて優勝候補が絞られていく。会場の空気もそれとともに緊張感が増し、ピリピリとした空気が痛いほどだった。スイス方式といえども優勝を目指すためには負けられない。そのため3回戦は実質的にはベスト4をかけた対戦ということになる。開幕2連勝の好発進を果たしたパンダネットペア碁チャンピオン枠から出場した下田和美さん、田辺聰さんペアはここで中華台北代表の白昕卉さん、黄偉さんペアと戦った。結果は中華台北代表ペアの勝利。下田さん、田辺さんペアは惜しくも優勝争いに食い込むことはできなかった。しかしその後は勝って4勝1敗の4位に入賞。「パンダネットの大会で組むことが決まってから数回練習対局をしました。田辺さんは冷静な棋風、私は戦い好きと真逆の棋風が幸いしてうまくお互いの弱点をカバーし合えたと思います」と下田さん。JAPG杯を獲得し笑顔を見せていた。

 4回戦では九州・沖縄地区代表の関本実穂子さん、内田直也さんペアと中華台北代表の白昕卉さん、黄偉さんペアが3勝同士で激突。関本さん、内田さんは善戦したが、白さん、黄さんは強かった。もう一方からは韓国の金さん、朴さんペアが3回戦でマレーシアペア、4回戦でヨーロッパペア碁チャンピオンペアを破り4連勝。優勝者決定戦は中華台北ペア対韓国ペアの対決となった。

 優勝者決定戦は大盤解説を行い、その模様を参加選手が観戦できるようにという配慮から他の対局より少し遅れて、別室にて行われる。大盤解説は二十四世本因坊秀芳、聞き手は小川誠子六段という豪華な布陣。海外選手向けにマイケル・レドモンド九段による英語解説もあり、多くの人が楽しんだ。

 互角の戦いだったが、一手のミスから白番の韓国ペアがリード。そこから中華台北ペアが必死に粘るも最後は白番中押し勝ちとなった。「大会を通じて日本ペアもヨーロッパペア碁チャンピオンペアもみんな強くて大変だった。特に最後の中華台北ペアとの碁は良くなってから決め手をなかなか与えてもらえず頭に血が上ったところもあった」と朴さん。毎年優勝している韓国ペアとしては勝って嬉しいよりもホッとするという感覚のようだ。金さんは本大会出場3回目にして3度目の優勝。「朴さんとの相性は良くて、打ちやすかったです。この大会は楽しいので何回も来たくなります」とほほ笑んだ。

 中華台北ペアに決勝について聞くと、「相手が強かった」と悔しいながらも清々しい表情。「ペア碁は楽しかった」と白さんが言うと、黄さんも「いい経験でした」と大会を満喫したようだった。

世界学生ペア碁選手権大会

 こちらは4回戦のリーグ戦。13カ国地域16組32人の選手が参加した。各国選手は前日に抽選会を行い、親善対局と前夜祭に出席したが対局は2日目から。国際アマチュア・ペア碁選手権大会と同じホールで行われた。

 日本から出場したのは5組で、うち学生大会成績優秀者から4組、特別推薦枠で高校生ペアが1組というメンバーだ。日本の学生のレベルは非常に高く、学生本因坊とアマチュア本因坊をダブル優勝した大関稔さんをはじめ、学生の枠を超えて活躍する選手が大勢いた。そのため日本勢が大躍進。前回、前々回優勝の韓国ペアをはじめ、中国、中華台北などの強豪国を押さえて3勝同士の優勝者決定戦に駒を進めたのは阿久津千尋さん、大関稔さんペアと藤原彰子さん、平野翔大さんペアだった。日本対決を制したのは藤原さん・平野さんペア。日本勢初の優勝という快挙を成し遂げた。「パートナーの足を引っ張ってしまったところもあったけど、優勝できてよかった」と藤原さん。平野さんは自分で打っているようにはうまくいかないという理由でペア碁は苦手だったようだが、「僕が強いおかげで勝ちました」とユーモアを交えて語った。一方惜しくも敗れた阿久津さんと大関さん、「せっかくなのでできれば優勝したかった」と悔しさもあったようだが、3局目で中国ペア相手に際どく半目勝ちを収めるなどのファインプレーもあり「(大会を通して)満足しました」とにこやかだった。


 ここからは他の選手の戦いぶりを見て行こう。まずは高校生の毛塚瑛子さん、松本直太さんペア。本大会の最年少ペアだ。松本さんは前日の抽選会で紹介されると「大学生のみなさんに勉強させていただく気持ちで頑張ります」と挨拶し、毛塚さんは「高校生らしく元気いっぱいに打ちたいです」と決意を述べていた。大会では最初に2連敗し「大学生のみなさんは強い。いっぱい負けています」と表情が暗かったが、その後持ち直して2連勝と健闘した。

 ルーマニア出身のローラ・アウグスティナ・アブラムさんとドイツ出身のヨハネス・オベナスさんのペアは何度も日本に訪れたことがあるという。特にローラさんは国際アマチュア・ペア碁選手権大会の選手にもなったことがあるベテラン。驚くことにローラさんが囲碁を覚えたきっかけは小学校の授業だったという。「ルーマニアの小学校で、たぶんヨーロッパ全体でも1校だけだと思うけど、単位がもらえる囲碁の授業があったんです」。囲碁は思った以上に深くヨーロッパにも根付いているようだ。

 オーストラリア出身のシンディ・シュさんとニュージーランド出身のケン・シェイさんペアは大会当日に初めて顔を合わせた。というのも、シンディさんは立教大学の交換留学生として来日しており、ケンさんは中国の大学で勉強しているためだ。「初めてペア碁をしたけど、とても楽しいです。特にお互い棋風が違うので、どう考えを合わせるかという部分が面白いですね」

 大会を通して印象的だったのは、みんなとにかく局後の検討が楽しそうということだった。あり得ないような変化を作って爆笑したり、気合のいい一手を大きなリアクション付きで放って笑いを誘ったり…。次の対局が始まるまでの時間を休憩もしないで碁盤の前で検討している姿を見て「囲碁はここにいる人たちの共通語なのだ」と改めて認識した。

荒木杯ハンデ戦

 Aブロック=34組68人、Bブロック=58組116人、Cブロック=42組84人、合わせると134組268人ものペア碁ファンが集まって荒木杯ハンデ戦は大盛況だった。

 毎年、荒木杯、世界学生ペア碁選手権大会を含め、国際アマチュア・ペア碁選手権大会はとても華やかだ。その大きな理由は参加者が全員エレガントに着飾っていることにあるのは間違いない。囲碁とともにおしゃれも楽しんでほしいという思いから、参加者の中から特に素敵なおしゃれをしていたペアに「ベストドレッサー賞」が授与される。審査員を務めるのは世界的なデザイナーであるコシノジュンコさん。ファッション界の権威に審査してもらえると思うとおしゃれの方にも自然と力が入る。ペア碁はまさに紳士淑女のマインドスポーツであり社交の場、そんな雰囲気が会場を包んだ。

 Aブロック出場者には高段者が多く、ハイレベルな戦いが繰り広げられていた。森菜都未さんと伊瀬英介さんは昨年「パンダネットペア碁チャンピオン枠」で世界戦に出場したペア。「昨年組んだことがきっかけで今年も出ることにしました」と森さん。「世界戦の予選にも出たんですけど負けてしまったので、Aブロックで出ることにしたんです」。堀江邦子さん、仲秀行さんペアも近畿代表として世界戦に出場した経験がある実力者ペア。「ペアを組んでもう12年になります。世界戦の予選には負けてしまったけれど、毎年ペア碁は楽しみにしているので、わざわざ大阪から出てきたんですよ」。かなりの参加者が世界戦出場経験のある実力者とあって、会場には優雅な中にもピリッとした勝負の緊張感が漂っていた。

 Bブロックは勝負よりも楽しみの方に少しウエイトがかかっているという人が多いだろうか。年齢も幅広く、ご高齢の方から小さなこどもまで様々な人がいた。ペアを組むきっかけは実に様々。夫婦で親子で友達で―。みな、このパートナーと楽しみたいという気持ちで参加しているのがよくわかる。

 取材する中で多く見かけたのが棋力差のあるペアだった。安斎京さんは低段者だが関仁さんは高段者。関さんが経営する囲碁サロンに安斎さんが通っているうちに意気投合しペア碁に出ることになったと言う。「自分の手をカバーしてもらえるし、こんな手があるのかと勉強になります。勝つと2倍嬉しいし負けてもそんなに悔しくない」と安斎さん。ペア碁は毎年の恒例行事となっており「今年でおそらく5回目の出場」と言う。

 Cブロックはかわいらしくおしゃれをした子どもたちがたくさん出場していた。子ども教室のお友達同士で組んでとても楽しそう。毎年多くの子どもたちをペア碁大会に参加させている教室の先生に話を聞くと「参加のはじめのきっかけはピアノの発表会のドレスを見たことなんです」と意外な答え。「発表会のドレスはお母さんの手作りのことが多いんです。すごく素敵なのに発表会の時だけしか着ないなんてもったいないじゃない。だから、ペア碁に出ましょうって言ったのよ」。ペア碁大会は子どもたちの日頃の成果を発表する場であると同時にお母さんの発表の場でもあるようだ。

閉会式&表彰式


國分正明大会会長・実行委員長

松田昌士日本ペア碁協会理事長

 二日間の祭典は選手全員で行う表彰式で締めくくられる。大広間には様々な食事が用意され、立食パーティー形式に。興奮冷めやらぬ空気の中、まずは國分正明大会会長・実行委員長が登壇し、大会が無事に終了したことを報告。「世界のあちこちで争いがあるけれど、争いは盤上だけというペア碁の精神は素晴らしい。国際親善に寄与できるよう私も力を尽くしたい」と締めくくると会場から拍手が沸き起こった。続いて松田昌士日本ペア碁協会理事長が登壇。「私の気持ちはほとんど大会会長である國分さんが話してくださった」と前置きした上で「一言付け加えたい。ペア碁を生み出し、ここまで育てたのは滝夫妻です。27年前はこれほど大きく成長するとは思っていなかった。私も少しでもペア碁が発展してけるよう微力ながら力を尽くしたい。またペア碁を見て、打って、楽しんでくれているすべての人々に感謝したい」とこれまでのペア碁の歩みを感慨深く振り返るとともにペア碁を生み、ここまで育ててきた滝夫妻への熱い感謝の意を表明した。

 そしてトーマス・シャン ヨーロッパ囲碁連盟会長・世界ペア碁協会理事の乾杯の挨拶。「滝夫妻と関係各位に感謝します。2016年はペア碁ワールドカップが開催されるなどペア碁にとって素晴らしい年でした。2017年にペア碁がより発展すること、そして究極の目標であるオリンピックの種目になることを祈願して乾杯」と盃を掲げた。 しばしの歓談の後にいよいよ表彰式が行われる。表彰されるペアはみな晴れやかな表情で見ている側も心が弾む。各大会、各ブロックの優勝者は順番に表彰状、盾、記念品を受け取り、会場からは温かい拍手が送られた。

第27回国際アマチュア・ペア碁選手権大会 結果
優勝:韓国
金 秀英 (キム スヨン) 六段・朴 鐘昱 (パク ジョンウク) 七段 ペア

第3回世界学生ペア碁選手権大会
優勝:日本
藤原 彰子 (ふじわら あきこ) 六段・平野 翔大 (ひらの しょうだい) 六段 ペア

荒木杯ハンデ戦Aブロック優勝
林 むつみ (はやし むつみ) 六段・谷口 洋平 (たにぐち ようへい) 八段 ペア

荒木杯ハンデ戦Bブロック優勝
草深 久美 (くさふか くみ) 5級・高 成謙 (こう せいけん) 八段 ペア

荒木杯ハンデ戦Cブロック優勝
川﨑 洋子 (かわさき ようこ) 25級・田中 孝生 (たなか たかお) 六段 ペア

また、本大会の最年長ペアと最年少ペアに記念品が授与された。

最年長ペア(合計156歳)
Bブロック 藤田 美穂子(ふじた みほこ)(76歳)・近藤 士郎(こんどう しろう) (80歳)ペア

最年少ペア(合計14歳)
Cブロック 田中 鈴(たなか すず)(8歳)・野口 知輝(のぐち ともき)(6歳)ペア
Cブロック 福島 ことは(ふくしま ことは)(7歳)・首藤 彪之介(しゅとう とらのすけ)(7歳)ペア
Cブロック 福島 そのか(ふくしま そのか)(7歳)・山田 大貴(やまだ だいき)(7歳)ペア

 続いてベストドレッサー賞へ。子どもたちの中から選ばれるキッズ・アワードから海外選手に送られるナショナルコスチューム・アワードまで全部で8つのセクションがある。選手たちが対局をしている間にコシノ ジュンコ審査委員長と滝裕子日本ペア碁協会常務理事で審査して回り、素敵だと思った方々を候補としてノミネート。そして審査を経て、各セクションで特に素敵な装いをしていた方1~2名に送られる。
 受賞者は以下の方々。コシノ ジュンコ審査委員長の講評も合わせてご紹介しよう。

【キッズ・着物・アワード】
ハンデ戦Cブロック208番 長尾 布美子(ながお ふみこ)柿沼 奏(かきぬま かなで)ペア

【キッズ・ファッション・アワード】
ハンデ戦Bブロック139番 藤原 早希(ふじわら さき)王 欣浩(おう しんこう)ペア

【和装・アワード】
ハンデ戦Aブロック21番 塩野 由理(しおの ゆり)石村 竜青(いしむら りゅうせい)ペア

【ファッション・アワード】
ハンデ戦Bブロック129番 奥本 佳那子(おくもと かなこ)椎葉 崇(しいば たかし)ペア

【学生部門 コンテンポラリー・アワード】
中国代表 王 詩婕(オウ ショウ)李 元祺(リ ゲンキ)ペア

【学生部門 ナショナル・コスチューム・アワード】
メキシコ代表 アンドレア・ビジャレン/セバスティアン・リオス ペア

【ペアルック・アワード】
南アフリカ代表 マーゴット・スマイス/ベン・ブレデンカンプ ペア

【ナショナル・コスチューム・アワード】
ノルウェー代表 パニラ・エリザベス・ハヴァルビ/ヨン・ルナル・メルティング ペア
スロバキア代表 ズザナ・クラリコヴァ/ミラン・ヤドロン ペア

 スクリーンに素敵な衣装に身を包んだペアが紹介される度に会場から拍手が沸き起こった。ひときわ会場が沸いたのはキッズ・着物・アワードを受賞した二人が壇上に上がった時だ。まるで日本のおとぎ話中から出てきたかのような愛らしい、キュートな姿が映し出されると会場のあちらこちらから「かわいい!」と歓声が上がった。コシノ ジュンコさんも「みなさんあまりにもかわいらしいので、キッズ・アワードは最初1つの予定でしたが、とても1つには絞れないと急きょ2つ(キッズ・着物・アワードとキッズ・ファッション・アワード)に分けました」と子どもたちのファッションを大絶賛。みんなから称賛されて、受賞した子どもたちもどこか誇らしげだった。

 受賞者へ記念品を贈呈し終えるとコシノ ジュンコ審査委員長は会場の参加者に向き直り、次のように総括した。「今大会より初めて前夜祭から参加しました。国を代表し国の顔であるナショナル・コスチュームを着て、にぎやかに楽しく、そして優雅に参加している選手の姿を見て、この大会は本当にインターナショナルな「囲碁のオリンピック」のようだと感じました。2020年のオリンピックを目前にしてこのようなペア碁の大会を行うことは、オリンピックと関係した素晴らしい競技としてのペア碁を発信することだと思います」

 素敵なパフォーマンスも行われた。ペア碁の歌を歌手の平田輝さんと我那覇美奈さんによるペア碁のテーマ曲「Pair Go, My Dream」の合唱が行われたのだ。プロの清涼感のある歌声にみな聞き入った。

 そしてお楽しみ抽選会。豪華な賞品が当たるチャンスに会場は大盛り上がり。そうして楽しい時間を過ごしているうちに二日間の祭典は幕を閉じた。

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