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「世界ペア碁最強位決定戦」

謝・井山ペア、於・柯ペア

10月5日(木)
いよいよ「世界ペア碁最強位戦2017」のクライマックス――「世界ペア碁最強位決定戦」の日を迎えた。対局場となる「セルリアンタワー能楽堂」の前には、早くから13時の開場を待つファンの列があった。
13時30分。大勢のファンが集まる中、開会式が始まった。
司会/8月12、13日「世界最強位戦2017本戦」がセルリアンタワー東急ホテルで開催されました。
日本からは謝依旻六段・井山裕太九段ペア、藤沢里菜三段・羽根直樹九段ペアをはじめ、韓国、中華台北からトップペアが参加し、白熱した戦いを繰り広げ、見事、謝・井山ペアが優勝。「世界ペア碁最強位2017」の称号を獲得しました。
「世界ペア碁最強位戦 本戦」は毎年開催され、各年の本戦優勝ペアが「世界ペア碁最強位」保持ペアと対戦することとなります。
さて、現在の保持ペアは中国の於之瑩六段・柯潔九段ペアです。昨年、世界12カ国・地域から、16ペア32名の囲碁界を代表するトッププロ棋士・アマ強豪が集結した「ペア碁ワールドカップ2016 東京」で優勝し「世界ペア碁最強位」の称号を獲得しました。 本日はこの両ペアによる、世界ペア碁最強位決定戦を開催します。

続いて、主催者を代表し、公益財団法人日本ペア碁協会常務理事、世界ペア碁協会副会長の滝裕子が登壇した。
滝裕子常務理事「本日は「世界ペア碁最強位戦2017 最強位決定戦」にお越しいただき、誠にありがとうございます。昨年開催いたしました「ペア碁ワールドカップ2016 TOKYO」は、多くの方々にご来場いただき、大変な話題となりました。次のワールドカップは、前回大会から4年後の2020年、東京オリンピックイヤーになりますので、皆様のご協力を得て、よりスペシャルな大会といたしたいと思います。その2020の大会へ昨年の盛り上がりをつなげていきたいと思っておりまして、今年、そして来年、再来年は選抜制という形で「世界ペア碁最強位戦」を開催するはこびとなりました。今年の大会は8月と10月の二部構成となっており、8月には「世界ペア碁最強位戦2017本戦」として、日本、韓国、中華台北のトップ棋士が競いました。そして、謝依旻六段・井山裕太九段ペアが見事優勝されました。本日は、謝依旻六段・井山裕太九段ペアと、初代の「世界ペア碁最強位ペア」の於之瑩六段・柯潔九段ペアとの「世界ペア碁最強位」の称号をかけた対戦が実現いたします。
私どもは、1990年から毎年、アマチュア対象の「国際アマチュアペア碁選手権大会」を開催しています。そして、1994年からは日本のトップ棋士が出場する「プロ棋士ペア碁選手権」を毎年開催しております。そして近年は日本だけでなく、世界のトップ棋士が出場する国際ペア碁大会も開催しております。本日はトップ棋士の中でも、まさに、頂点にいらっしゃる4名の棋士によるペア碁対決が実現し、長年ペア碁を広める活動をしておりました者としては、本当に感無量の気持ちでございます。このように、華やかに大会を開催することができますのも、東急グループ様、ぐるなび様、三井住友銀行様、SMBC日興証券様をはじめ、多くの協賛各社様、ご協力いただきました関係各位様のおかげさまと心より感謝しております。誠にありがとうございます。
それでは皆さん、本日の素晴らしい対局をどうぞお楽しみくださいませ。」

続いて、本大会の審判ならびに解説を担当する棋士が紹介された。
大会審判長は大竹英雄名誉碁聖。
副審判長は小川誠子六段と吉田美香八段。
審判は孔令文七段。
名誉審判長として、聶衛平九段。
大盤解説は、小林光一名誉棋聖・名誉名人・名誉碁聖と二十四世本因坊秀芳、石田芳夫九段。
聞き手は、小川誠子六段と吉田美香八段。
インターネット囲碁サロン・パンダネットでのライブ解説は今村俊也九段。

代表して、大竹英雄名誉碁聖があいさつに立った。
大竹英雄名誉碁聖「皆様、ようこそいらっしゃいました。ただ今日は、女性がやや少ないようですね。「ペア碁」ですから、これからはペアでご来場いただくことにするというのはいかがでしょう(会場。笑)。やはり、囲碁普及のためにはペアはよいですね、和やかになりますからね。
さて、皆さん今日は、中国から聶衛平九段が見えています。日本の小林名誉三冠、石田さん、中国の兪斌九段もお越しです。こういう棋士と会えるということは、それだけで、皆さん何目強くなったかわかりません(会場、笑)。
これから二人の解説もありますし、ぜひたくさんのことをキャッチしてお帰りいただければと思います。そして、何と言いましても、これから戦う両ペアはものすごく強いですね。柯潔さんは世界のトップですし、井山さんは七冠にまたなりかかっています。これだけ強い人が集まる場所はありませんよ。皆さんはそういう人たちに会えるわけですから、皆様、今日は十分楽しんでください。」

そして、出場ペアが入場し、万雷の拍手で迎えられた。
改めて紹介すると……
於之瑩六段は、2014年、強い中国の若手の中で女性初の「新人王」を獲得、2015年には三星火災杯でベスト16に進出するなど世界戦でも男性棋士に負けない活躍をしている。
柯潔九段は、現在中国ナンバーワン。世界ランキングでもナンバーワンに位置づけられている。
謝依旻六段は、2016年に史上初の女流四冠を達成。現在、藤沢里菜三段との「二強時代」を築いて日本の女流囲碁界を引っ張っている。
そして、井山裕太九段は、2016年に史上初の七冠を達成。その後名人位を明け渡すも、今大会の後に奪還し、二度目の「七冠」という大偉業を成したことは皆さんもよくご存じだろう。
ちなみに、於之瑩六段と謝依旻六段はプライベートではとても親しい。「世界戦などで会うと、夜はホテルの私の部屋に皆が集まってきておしゃべりをする」と謝依旻六段。今大会の後も、一緒に食事に出かけたようだ。

さて、4名は、民族衣装をまとって少し気恥ずかしそう。だが、それぞれに緊張の中にも自信にあふれた表情だった。そして、再び会場のファンに拍手に送られて、対局会場の「セルリアンタワー能楽堂」へと向かった。

「セルリアンタワー能楽堂」は、2001年に東急電鉄の旧本社跡地に開設された。世界に向けた伝統文化の発信機能を担う施設として、能・狂言の公演を中心としながら、バレエやクラシック音楽などの異文化との競演など、多彩な公演活動が行われているという。
8月に行われた「世界ペア碁最強位戦2017 本戦」の決勝戦でもこの舞台が使われたが、今回の「決定戦」では、さらに演出が加わり、笛・小鼓・大鼓・太鼓という能楽囃子方の演奏に導かれて、花道より登場した。
厳かで格調高い張り詰めた空気の中、いよいよ対局がはじまった。

 では、「世界ペア碁最強位決定戦」の模様を、ダイジェストでお伝えしていこう。

1図

謝・井山ペアの黒番。白50まで「黒の流れがよい」と大盤解説会場の両解説者。

2図

小林光一名誉三冠は「白52のノゾキに黒55とツイでいれば黒有望」としたが、黒53のノゾキ返しから局面は難しくなっていった。
石田芳夫二十四世本因坊が担当する大盤解説会場には、武宮正樹九段も登場。武宮九段は「黒51で54ならわかりやすかった」とし、難しい進行を追いながら「すごい精神力だよね」(武宮)、「闇試合に慣れてるんだね」(石田)と、ひたすら感心した様子だった。
「黒69では70にハネたかった」と石田二十四世本因坊。局後に柯潔九段は、「それなら(白Aに)引く」とのこと。それから黒69としていれば、黒が少しくつろげた。黒70に白Bの切りは、黒Cと切って黒が戦えるそうだ。

3図

実戦は左下の黒の大石が部分的には生きのない形となった。
だが、白90のトビが方向違い。黒91から、黒に元気が出てきた。

局後の控室では、白90の場面が話題にのぼった。柯九段の動揺ぶりに於六段は「(白90を打つ前の)5秒前に戻りたい」と思ったそうだ。吉田美香八段は、「あんなふうにパートナーの男性棋士に振る舞われると、普通の女性棋士なら萎縮してどのあとボロボロになってしまいそう。私なら泣いてしまいます。でも、於之瑩さんはすぐに気持ちを立て直し、そこから普段どおりに強いのはさすがだと思いました」と感嘆していた。

4図

「黒27と抜いては逆転ムード」と石田二十四世本因坊。黒51まで「黒の有利な一手寄せコウで黒は余裕がでてきました。少なくとも白勝ちとは言えません」。
 武宮九段は「これだけ戦い合えば、勝っても負けても…」と両ペアの検討を讃えようとしたが、間髪入れずに石田二十四世本因坊は「いや、そうはいかない」。本気モードの応援ぶりに、会場からは笑い声があがっていた。

5図

思えば8月の本戦決勝戦の崔精七段・朴廷桓九段ペアとの一戦も劣勢からの逆転だった。局後、井山九段も「こちらの勝ちパターンかと思ったのですが」と笑いながら振り返った。
だが黒69が失着で、白76まで要の黒2子を取られては、流れは一気に白に傾いた。「チャンスが来たと思いましたが具体的にどう打てばよいかはわかりませんでした」と井山九段。「やはり、最強ペアは強かったです」。
右辺もいつの間にか、白が有利な一手寄せコウに。白98と左下の黒にとどめを刺されて、黒が投了を告げた。

局後、熱戦を終えた4名は、大盤解説会場に現れた。
小川誠子六段の「どこで勝ちを確信しましたか?」と問いに、
於之瑩六段は「(黒69から)中央で黒が大きな損をしたときに、相手ペアが動揺したのはわかりました」と話し、「でも今日の碁は私はパートナーに迷惑をかけてしまいました」と反省しきりだった。
柯潔九段は「最後に相手が投了したとき」と振り返った。「あまりにも複雑で、何が起こるかわかりませんでした。本当にあまりにも激しい碁で、汗だくです」

惜しくも敗れた日本ペアにもマイクが向けられた。
井山裕太九段「今日は大勢いらしていただき、ありがとうございます。最高の舞台に立たせていただき光栄に思っています。今日の碁は苦しい流れで、途中、こちらにも流れがきたかと思ったのですが、そこからやはり最強ペアは強かったです。またリベンジする機会があればがんばりたいです。相手ペアにはおめでとうと言いたいです」
謝依旻六段「今日はありがとうございました。今日の決定戦に出場でき嬉しく思います。できれば勝ちたかったのですが、私がまずい手を打ち、苦しい展開にしてしまいました。中盤にチャンスがきたのですが、勝負所で相手が強く、勝てませんでした。井山さんと何局も打たせていただき、勉強になりましたし楽しかったです」

また、能舞台での対局について、於六段は「緊張しましたが、観られながら対局するという体験ができたことはとてもよかった。また体験したいと思います」、柯九段は「笛のピーという音に驚きました(笑)。中国の京劇を連想しました。儀式感があり、よかったですし、あまりにも激しい碁で汗だくです。儀式感があり、観られている中での対局は、新鮮な気持ちを味わせました。よい集中で、かなりゾーンの状態に入っていたと思います。だからボヤキ声も大きくなりました」と終始笑顔で喜びを語っていた。

その後、控室に戻った両ペアは、大竹英雄名誉碁聖、小林光一名誉三冠、石田芳夫二十四世本因坊、そして聶衛平九段らと共に、和やかに検討を続けていた。

「世界ペア碁最強位決定戦」表彰式

世界ペア碁最強位ペアへのトロフィーの贈呈

17時。表彰式が行われた。
公益財団法人日本ペア碁協会理事長、松田昌士が登壇。
松田理事長「まだ興奮が覚めやらずというところであります。本当に戦われたチームの優勝された方はもちろん、残念ながら敗れた大先生方も本当にすごい碁をみせていただきました。私は実は――へぼ碁でございますが――碁というのは穏やかに打つものだというふうに教えられました。でも、今日、世界最強のトップの4人の方が打っているのを見まして、碁の性格は格闘に似てきたなと感じました。そんなことはともかく、優勝されたお二方、本当におめでとうございます。」

続いて、本大会を実現するにあたりご協力ご支援をいただいた、協力・協賛各社のご紹介。

そして、優勝した於之瑩六段・柯潔九段ペアが登壇すると、改めて大きな拍手がわき上がった。
トロフィが、松田理事長より贈呈された。

「世界ペア碁最強位」の証書と、賞金1000万円の目録が、上條清文実行委員長から贈呈された。

続いて、滝裕子常務理事より記念品――日本のこけし――が贈られた。

謝・井山ペアにも賞金目録の贈呈

惜しくも敗れた、謝依旻六段・井山裕太九段ペアにも松浦晃一郎海外担当実行委員長より賞金が贈呈された。

かくして、世界の囲碁界を代表するプロ棋士ペアが熱戦を繰り広げた「世界ペア碁最強位戦2017」が幕を下ろした。

「世界ペア碁最強位戦本戦」は毎年開催され、本戦優勝ペアが、「世界ペア碁最強位」保持ペアと対戦することとなる。来年はどのペアが「世界ペア碁最強位」の称号を手に入れるのだろう。世界のトップ棋士が集う奇跡のような夢の大会を、また楽しみに待ちたい。

主催

日本ペア碁協会 / 世界ペア碁協会 / 世界ペア碁最強位戦 2017 大会実行委員会