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プロ棋士ペア碁選手権2017

2017年2月12日(日) 開幕~1回戦

 囲碁界で最も華やかな祭典――「プロ棋士ペア碁選手権2017」が今年も開幕です。大会初日の2月12日(日)は、約750人のファンに見守られながら、一回戦から準決勝戦が東京・市ヶ谷の日本棋院で行われました。出場棋士は、賞金ランキング上位者32名・16組。名実ともに日本のトップ棋士が一堂に介する夢のような一日の模様をレポートします。

【開会式】



 対局会場に移動すると……朝早くから、すでにファンでいっぱい。皆さん、お目当ての対局スペースの前に陣取っており、日本棋院の2階の大フロアが手狭に見えるほどだ。すでに会場がすっかり温まっている中、開会式がスタートした。

 まず、主催者の挨拶として、公益財団法人日本ペア碁協会の滝裕子常務理事が登壇した。
滝常務理事「本大会も23回目を迎え、嬉しく存じます。本日は、実力も人気もトップの棋士の皆さま、32名・16組のペアにより、一回戦、二回戦、そして準決勝戦を行っていきます。3月5日に行われます決勝戦も公開対局で行います。こちらもどうぞよろしくお願いいたします。
 ペア碁協会は、昨年7月には、『ペア碁ワールドカップ2016東京』を渋谷で開催いたしました。世界のトップ棋士がご参加してくださり、観戦者は約4,000人に及びました。大変嬉しく、ペア碁を通じて囲碁を広めていこうという意欲が倍増いたしました。この皆さまの熱気をさらに広げて、2020年の東京オリンピックの年には「ペア碁ワールドカップ2020」を開催する予定です。ペア碁が囲碁の普及に効果を発揮することを実感しており、世界平和、国際親善の力になると自負しております。今後ますます情熱、エネルギーをそそいで頑張っていきたいと思っています。
特別協力の日本棋院、協力の関西棋院、後援・協賛いただいた各社の皆さまにお礼申しあげます」

 続いて、大会審判長の大竹英雄名誉碁聖が壇上へ。
大竹審判長「本日は、朝早くから、大勢の方がいらしてくださいました。ありがとうございます。皆さん、相当、碁がお好きなんですね(会場、笑)。これだけの棋士が揃うというのは、我々もあまり見たことがなく、すばらしいですね。それを組み取る力が皆さまにあるかどうか(会場、笑)。選手諸君のオーラがあります。今日一日をここで過ごして碁が強くならなければ、お辞めになったほうがいい(会場、笑)。それは冗談といたしまして……ペア碁は、相手をいたわり、尊敬し、二人で、いや、四人で作品を創っていきます。今日はその迫力をダイレクトに、じかに感じていただきたいと思います。一力君(遼七段)、余君(正麒七段)たち若い力にも注目してください。知的で楽しい一日を過ごされますように。楽しんでください。選手諸君もがんばって!」

 対戦ペアと組み合わせは、昨年10月31日に、抽選会によって決定されている。
 その一回戦・8局の組み合わせはご覧のとおり。当たり前ながら、どのペアも手強そうで、一回戦から好カードがズラリと並んでいる。

 そして、選手たちが紹介された。対戦する2ペアずつが登壇し、4名はそのまま対局スペースへ移動していく。どのペアにも、会場からは暖かい盛大な拍手が贈られていた。
 大竹審判長の開始コールと共に、いよいよ一回戦が始まった。

【第一回戦】

 会場の対局スペースは、一局ごとに仕切られ、三方から観戦できるようになっている。残る一方には記録係2名が着席し、その後方には盤面を映す大きなモニター画面が設置されている。それからもう一つ、4名の対局者の前には「手番くん」も設置された。次に打つ人の前のランプが点灯して「誤順」を防いでくれるのだ。アマチュアだけでなく、プロでも意外に「誤順」することがある。それもペア碁ならではのドラマと言えるけれど、誤順のペナルティ3目で勝負が入れ換わったりすると、やはり味が悪い。誤順はないほうがよい。というわけで、開発されたのが「手番くん」だ。昨年のワールドカップで初めて「手番くん」を見た海外選手は、「おお~!」と感嘆の声をあげていた。

 観戦者は、対局者の息づかいを感じながら盤面を直接見ることもできるし、対局者の表情を見ながらモニター画面で進行を確認することもできる。8局すべてが、ぐるりと何層にもギャラリーに囲まれた。対局者たちは周囲のギャラリーが気にならないのだろうか? と心配される方もいるかもしれない。でも、全くといってよいほど「気にならない」そうだ。昨年のワールドカップに出場した韓国の崔精六段のコメントもご紹介しよう。「こういう形での公開対局は韓国にはありません。とても羨ましいです。ぜひ韓国でもやりたいと思いました。日本のファンはとてもお行儀がよく、静かに観戦してくださいます。対局には何も問題はありませんでした。それがまた素晴らしいと思いました」

 では、それぞれの対局を追ってみよう。
 前年度優勝の、王景怡二段・村川大介八段ペアは、「昨年は中国・安徽省での「日中韓ペア碁名人選手権」や「ペア碁ワールドカップ2016東京」に出場させていただき、充実した一年でした」と声をそろえる。王二段は「村川さんとだいぶ仲良くなりました」とニコニコ顔。経験豊かなこのペアは、対局前も落ち着いており、互いに信頼しきっている様子だった。しかし……結果は、一回戦敗退。気が合ったことが、意外にも裏目に出てしまったようだ。村川八段は「うまく打てていて、楽勝だと思ってたのですが(笑)。二人とも楽観してから流れが変わってしまいました。だんだん息が合ってきたので、負けたのは残念」。
 「優勝するイメージで打っていたのですが」と話す王二段の隣で、村川八段は「すみません、お役に立てなくて」。負けても笑顔のお二人だった。



 向井千瑛五段・結城聡九段ペアと聞けば、「戦いが強そう!」なイメージだ。結果はイメージどおり、知念かおり六段・山田規三生九段ペアの、ものすごい大石を仕留めてしまった。プロの対局では珍しく、大石を抜かれる状態まで打ちきっての終局は、ファンサービスでもあったのかもしれない。そしてもう一つ、大石を取られてしまったのには、真相があったようだ。局後の山田九段が教えてくれた。「勝ちそうだったんですけど。取りにいかなくても形勢はよかったんですね。だから、僕も知念さんも、一人で打っていたら取りにいかなかった」と笑う山田九段。「でも、お互いに、やる気満々なところをパートナーに見せたくて、それぞれ引くに引けなくなってしまって(笑)。唯一の負けのコース。それしか負けようがない、というコースをいってしまいました」


 大竹審判長のご挨拶にもあったように、今期も若手棋士の活躍が期待された。23年目を迎える本大会より若い棋士……つまり、第一回大会のころにはまだ生まれていない棋士が、若い順に、藤沢里菜女流本因坊(平成10年生)、一力遼七段(平成9年生)、木部夏生二段(平成7年生)、余正麒七段(平成7年生)、伊田篤史八段(平成6年生)と、5人もいる。
 初出場の木部二段と昨年準優勝の一力七段の最年少ペアは惜しくも小西和子八段・伊田篤史八段ペアに敗れてしまった。木部二段は「普段と違って、碁盤をななめに見る感じが不思議でした」。一力七段との相性を尋ねると「必死すぎて全然わかりませんでした」とのこと。ペア碁の経験がほとんどないそうだ。それでも、「一力先生が何を考えているのかを考えるのは勉強になりました。いつも一人で見ている碁盤と全く違う景色が見えました」と、ペア碁の魅力にハマったようだ。「来年も出場できるように、がんばります!」。一力七段は「チャンスはあったのですが。僕のほうがミスをしてしまって」と無念そうだった。
 ちなみに小西八段は、第一回大会で橋本昌二九段とペアを組み優勝されている。「こんな若い子とペアを組むようになって…」と感慨深げ。「でも、伊田さんとのペアは打ちやすかったです。勝ったから言えるのかもしれないですけど(笑)」


 昨年の王座戦に続いて、十段戦の挑戦に名乗りをあげたばかりの余正麒七段。乗りに乗っているが、「ペア碁は難しい」そうだ。「昨年も一回戦で負け、今年も負けてしまいました。まだ勝ったことがない」と恥ずかしそうに笑っていた。ペアを組んだ加藤啓子六段は「早くから悪くなってしまい、挽回できず、完敗でした」と相手ペアに脱帽の様子だった。
 こちらのペアに勝利したのは、藤沢里菜女流本因坊・羽根直樹九段ペア。藤沢女流本因坊は「ペア碁で初めて勝てたので嬉しいです」と満面の笑み。「羽根先生が冷静だったので、ついていきました」


 一回戦がスタートして間もなく、1階では大盤解説が始まった。解説は石田芳夫二十四世本因坊、聞き手は小川誠子六段という毎年大好評のお二方。この日も詳細な名解説に加え、辛口コメントや雑談やの盛りだくさんのトークが満席の会場を沸かせていた。例えば、こんなやりとりだ。
小川六段「(藤沢)里菜ちゃんは、一日に10時間、碁の勉強をしているそうですね」
石田二十四世本因坊「それはすごいですね」
小川「石田先生は、どのぐらい勉強なさるんですか」
石田「私は10時間飲んでます(会場、爆笑)」

 さて、その石田二十四世本因坊が「この碁は内容がいいですね」と感心したのは、石井茜三段・高尾紳路名人ペアと、謝依旻女流四冠・小林覚九段ペアの一戦。謝・小林ペアは優勝候補にあげられていたが、一回戦で姿を消すことになった。
謝女流四冠は「ステキな先生と組ませていただいたのに、私の気合いが悪くて申し訳なかった」と残念がっていた。「取りにいくのを、やめてしまった」のだそうだ。でも、小林九段の話を聞くと「僕が悪かったの。僕が選んだコースが危険すぎた。もっと違うコースをいけばよかった。謝ちゃんが取りにいくのをやめたのは、正解だったの」とのことだ。


 本大会3回の優勝経験を持つ青木喜久代八段と張栩九段のペアは、奥田あや三段・山城宏九段ペアに敗退。奥田三段は「山城先生がコウを仕掛けてくださって」と勝因を振り返り「とってもうちやすかったです!」と目をきらきらさせていた。青木八段は「(張栩さんと)棋風が違いすぎて。厚く打って下さいねってお願いしてたんですけど」と大らかに笑いながらサバサバした様子。終局後は張栩九段と反省会をたくさんしたそうだ。


 2015年に優勝した小山栄美六段と2014年に優勝した井山裕太六冠のペアは、桑原陽子六段・蘇耀国九段のペアに敗退した。「全体的にはいい感じで打てたのですが、相手が強かった」と井山六冠。実は桑原・蘇ペアは、前日にしっかり練習をしたという。「私にとっては、とってもよいパートナー」と桑原六段は満面の笑み。蘇九段も「陽子ちゃんと組めて、一人で打つより上手く打てました!」


 一回戦で最もギャラリーを集めていたのは、吉原由香里六段・河野臨九段ペアと、鈴木歩七段・趙治勲名誉名人ペアの一戦だ。「途中までチームワークよく、吉原さんが決め手も打ってくれて、行けるかなと思ったのですが」と河野九段。対する鈴木七段も「序盤で薄くて地のない展開だったのですが」と振り返る。「でも、治勲先生が中盤で厳しい良い手を放って下さって流れがよくなってきました」。結果は、鈴木・趙ペアの勝ち。河野九段は「二人のマジックにだまされてしまいました」と笑顔で話してくれた。


 一回戦終了後、棋士控室は、やはり和やかな笑い声に包まれていた。
 敗れたものの「臨くんはすごく優しいので、打っていて安心でした」と吉原六段が話すと、いつの間にか結城九段が「その節は、僕は怒ってしまいすみませんでした」と現われて、周囲は大笑い。吉原六段が「いえいえ、怒るほどに情熱を持ってくれるのもありがたいんですよ」と笑いながらも慌ててフォローすると、周囲から「あのときは、結城さんは本当に悔しそうだったよね~」の声。結城九段も「あのときは、半目負けだったから…」とたじたじ。すると知念かおり六段が「でも、結城さん、だいぶ落ち着いたよね~」と畳みこんで、またまた周囲は大笑い、という一幕も。知念六段と結城九段は、第3回の優勝ペア。20年前の結城九段はどんなだったのだろう!? 一連のやり取りを耳にしたこの日のパートナー向井千瑛五段は「私は優しい結城先生しか知りません」。皆さん、大会の長い歴史も振り返りながら団欒を楽しんでいた。

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